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日本の片隅でひっそりと暮らすおじさんが書くブログ

必殺仕事人V風雲竜虎編 第2話「将軍の初恋騒動!」

脚本:吉田剛 監督:原田雄一 ゲスト:津島恵子

夜叉堂の絵馬に殺しの依頼があった。それを引き受けたお玉(かとうかずこ)は、蝶丸(桂ざこば)から相手の名を聞いて驚愕する。相手はなんと、将軍職を引退してもなお権勢を振るう大御所・家斉(佐竹明夫)だった。とんでもない大物相手にたった8両では無理、と依頼を断ろうとするが、一度引き受けたからには遂行してもらう、と凄まれ、泣く泣く依頼を引き受ける。

そんなある日、主水(藤田まこと)はお鹿(津島恵子)という老婆とお光(橘ゆかり)という娘と知り合う。お鹿は45年間契りを交わした男を一途に思い続けてきたという。お光はそんなお鹿を愛しく思い、全くの他人ながら面倒を見続けてきたのだ。

お鹿が思い続けてきたのは高貴な人間であったが、優しく、たった一度契りを交わした後も、恋文を交換しあおうと誓いあった仲だったが、結局今まで一度も恋文は送られてこなかった。「そんな男なんて忘れろよ」というお光であったが、お鹿は今でも忘れられないと、恋文を送り続けるのであった。

その相手というのは実は大御所・家斉であり、家斉もまたお鹿のことが忘れられず、毎日お鹿に会いたいと悲しむばかりであった。側用人・水野(小林勝彦)に恋文のことを尋ねるも、恋文は届いていないとの報告を受けガックリ。家斉が権力者であることから、実は水野が恋文の存在をもみ消していたのだったが、そのことさえ知らず家斉は毎日お鹿のことを思いつめているのであった。

とうとう業を煮やした家斉は、自ら恋文を置きに行く、とお忍びでの外出を決行。45年前に約束した場所へ向かうと、そこに偶然お鹿とお光が。45年ぶりの再会に涙を流して喜ぶ家斉とお鹿であったが、お鹿は家斉の顔を見ることが出来ただけで満足し、大御所としての家斉の足を引っ張るからと、もう二度と会わないことを告げ、その場を去って行くのだった。そこで、水野がお鹿の恋文を握りつぶしていたことを知った家斉は激怒するが、高齢のため倒れてしまう。

家斉が身分の卑しい人間と接していたことが明るみになることを恐れた水野は、お鹿のまわりにいる人間全てを抹殺するよう、公儀お庭番に命令。影太郎(三浦友和)により心を開いたお光、そして、お光と余生を静かに暮らそうとしていたお鹿が、無残に殺されてしまう。

家斉を殺しの絵馬にかけたのはお光だった。お鹿が45年間も家斉のことを思い続け、いつまで経っても前向きな生き方が出来ないことを憂いたお光は、家斉が死ねば、お鹿は家斉への思いを断ち切るだろうと思い、殺しを依頼したのだ。ところが、2人の思いを踏みにじったのは家斉ではなく別の人間だったことを知った仕事人たち。

2人の恨みを晴らすため、水野とお庭番をおびき出す仕事人……。

いつの間にか、メ〜テレで『必殺仕事人V風雲竜虎編』が放送されていた。長期休暇の時期になると必殺シリーズを放送するメ〜テレ……謎だ。しかもむちゃくちゃ画質良いし。

吉田剛の"色"が存分に出た佳作編。1話で初登場した影太郎の人物像を固めるための話、とでもいうべきか。影太郎の飄々とした外見、それに似合わぬ鋭い洞察力、夜目の利く公儀お庭番との戦いに備えて焼酎を煮詰めてアルコールを作るなどの博学な一面……視聴者に「こいつは只者ではないぞ」という印象を与えるには十分な演出だ。しかし、正体をついぽろっとセリフの中に出すのは止めてほしかったが……。

さて話の中身は、吉田剛お得意の構成といった内容。目的が達成し、後は静かに暮らすだけの善人が、第三者的な悪人によって踏みにじられていく、という「まず悪事ありき」の前期作とは好対照の、後期作主流の作風。こういう作品では、仕事人が視聴者の役割を果たしてくれるので非常に分かりやすい。ただ、この話においては悪人の関連付けが弱いかなあ、という印象がある。「別に放っておいても良いのに、何でわざわざ……」と疑問を抱く視聴者もいるかもしれない。

これは風雲竜虎編の全体に言えることだが、無理やり悪人を作って必殺的解決を目指している話が多いように思われる。必殺としては、この時点でもうネタ切れだったのかなあ。話の出来自体は非常に良い作品が多いだけに、少し勿体ない気持ちもある。影太郎も面白いキャラクターだしね。

さて、この話に登場する大御所・家斉だが、日本史でも習った人も多いと思うが、本当に大御所として権勢を振るっていた。劇中で主水が言うとおり、子供を作りまくったことでも有名で、史実的にはどうしようもない将軍だったようだが、それを上手く脚色した吉田剛のアイデアは面白い。実際の側用人も「水野」という姓を名乗っていたので、今回の悪人もそれに引っ掛けたのかな?

最後にお玉の言う「大御所様はねえ、恋煩いで死んだんだよ」というセリフがかっこいい。確か家斉は69歳で死んだはずだけど、死因はお鹿への恋煩いだったんだね……。