脚本:中原朗 監督:津島勝 ゲスト:戸浦六宏 上野山功一
今回の仕事は小伝馬町。江戸地図には「牢」の文字が浮かび上がる。小伝馬町の牢屋では、囚人が虫けらのように殺されていた。
それと同じくして、江戸の大店の主が次々と殺される事件が発生。殺しの手口が柳次(津川雅彦)に酷似していたことから、新吉(宅麻伸)は柳次を疑い始める。そのことを問いただされた柳次は、自分に殺しの手口を教えてくれた元締・鬼火の重蔵(戸浦六宏)のことを考えていた。しかし重蔵は、自分をかばって奉行所に捕まり、打ち首になったはず……。
一方、柳次と今回の残忍な殺しの共通点を探るため、おくら(万田久子)と相談の末、新吉が牢屋に入ることとなった。牢屋で洗礼を受けたその夜、新吉は命を狙われる。死んだフリをした新吉は何とか難を逃れたが、殺そうとした男2人がその夜牢を抜け出した。同じ囚人から事情を聞く新吉。あの2人は牢名主で牢屋内を牛耳っている。そして、逆らおうものなら、否応無く消されてしまうというのだ。そして新吉は、その囚人から多助への頼みを聞く。早くあの2人を消してくれ、と。
その2人こそ、柳次の師匠である重蔵とその配下であった。重蔵は牢屋同心の高梨(上野山功一)を金で買収し、自由に牢屋の内外を行き来できるようにしているのだ。そして、夜に抜け出したときには、押し込みまがいの殺しを行い、商家から金品を奪っていた。
重蔵が抜け出した夜、柳次は妻と娘を連れて夜祭に来ていた。そこで、柳次は重蔵を目撃する。生きている重蔵の姿に驚くが、外道と成り果てた重蔵に失望。重蔵の誘いに返事を保留し、その場は別れた。
重蔵は妻と娘の命の保障を盾に仲間になることを強要。仲間に相談が出来ない柳次は、新吉との溝をますます深めるのだが、柳次は自衛策として妻と娘を旅に出すことにする。
仕事の段取りのため、アジトに集まる橋掛人たち。しかし頼み料がない。その時柳次が現れた。柳次は、重蔵がどんな男であるかを皆に話し、仕事料を分配。仕置きを依頼するのだった。
柳次の過去編。相手が戸浦六宏というのもナイスキャスティング。第1作目の『必殺仕掛人』から悪役として登場している大御所ゆえ、作品にも緊張感があって良いです。
牢屋を自由に出入りできる悪人というのも面白い。『必殺仕置人』の天神の小六の外道バージョンか。それを柳次の師匠として結びつけたのも、ドラマ性を膨らませるのに一役買っていますね。この作品は中原朗の脚本の妙味もさることながら、津島勝の手堅い演出にも注目したいですね。
まず、アジトで柳次が重蔵のことを独白するシーン。ここでは、各仕事師が柳次の独白に「えっ」と驚く顔を見せるのですが、柳次が事情を話しているときの松の表情が本当に良いんですよ。その場面に適している、何とも言えないような表情をしているんです。
次に、柳次と重蔵の対決シーン。柳次の殺しって、はっきり言って地味なんです。しかも手順が色々あって、まず反物を転がしてその上を歩いて相手に近づき、死角で待機して金糸を取り出す……こんな地味な殺し技の仕事師同士の対決を、どのように演出するんだろう、と初見のときは楽しみにしていたのですが、なかなか工夫されていて、迫力のある形で演出されていたのには驚きでした。その分、おくらの殺しがものすごく簡素でしたが。余談ですが、後半になると相手が元・殺し屋や忍者集団であるなど、手練の悪人が多く登場するのですが、その回を担当する監督である松野宏軌や黒田義之も、柳次の殺しにはこだわりを持って臨んでいます