脚本：ジェームス三木 監督：大林宣彦
お嬢様大学に通う１年生の千晶（片平なぎさ）はルームメイトの京子（志穂美悦子）と共にテニスに励む毎日。コーチの今岡（山本伸吾）も熱の篭った指導をして実力を引き上げようとするのだが、ある日今岡が打ったボールが千晶の左目に当たり、千晶は失明してしまう。
今岡は責任を感じ、千晶の視力を回復させようと、無免許医のブラックジャック（宍戸錠）に手術を依頼。手術用の角膜を準備しようにも、無免許医のブラックジャックではアイバンクに掛け合うことが出来ない。そこで、今岡はアイバンクから角膜を盗み出してしまう。
手術は無事成功し千晶は視力を取り戻したが、不思議な現象が千晶を襲い始める。目の前に男性の幻が映るようになってしまったのだ。もちろん、他の人間には見えず、千晶だけが目視できる人物で周囲の人間も途惑うばかりだ。これにはブラックジャックもお手上げ。
やがて、その男・風間史郎（峰岸徹）と出会う千晶は急速に史郎に惹かれていった。隠れて会うようになる千晶と史郎だが、その逢瀬に危機感を抱く京子。
一方、アイバンクから角膜を盗んだことで刑事（山本麒一、玉川伊佐男）に捕まってしまった今岡だが、示談が成立して保釈。京子と共にブラックジャックに相談する。角膜の持ち主だった女性は楯与理子（ハニー・レーヌ）と言い、ある人物によって殺されていたのだが、犯人は見つかっていなかった。ブラック・ジャックは、与理子が殺される直前に見た人物＝犯人の姿が与理子の角膜に残っており、移植された千晶の瞳に映し出させていることを看破。
今岡と京子は、無事千晶を救い出すことができるだろうか……？
実写版ブラック・ジャックの劇場版第一作。「春一番」のエピソードをアレンジした本作。宍戸錠のブラック・ジャックは、頬っぺたがふっくらしているけれど、冷たく突き放す冷酷さが滲み出ていて原作の雰囲気にはマッチしている。
ヒロインの千晶には片平なぎさ。千晶の親友・京子に志穂美悦子（両方とも若い！）。テニス部のコーチ・今岡に山本伸吾。千晶の瞳に映る男・風間史郎に峰岸徹。原作を膨らませるために登場人物を増やしエピソードを付け加えている。
原作との相違は以下の点。（登場人物については割愛）
- 千晶が失明した原因。
- 原作：白斑症
- 本作：テニス部の千晶がコーチとの特訓中ボールが目に当たって失明
- 手術に用いた角膜の入手について
- 男の幻が見える条件
- 原作：四六時中
- 本作：水が関係したとき（雨の日、シャワー、など）*1
- 犯人の最後
- 原作：逮捕
- 本作：自殺
など。ちなみに、ブラックジャックのアクションシーンは無し。風間史郎が殺人を行った理由が、病的に恋人を愛しすぎたがゆえであり、今でもその気持ちに縛られている……など、ドラマとしての理由付けがなされているのも特徴の一つか。
しかしながら、映画作品として見ると物凄くつまらない。テンポは悪いしシーンとシーンの間に無駄が多いように思う。原作を全く知らない人だったら、すぐに退屈になってしまうのではないだろうか。ライティングとかは凝ってるんだけどねえ……。まあ、片平なぎさと志穂美悦子の可憐な可愛さが堪能できれば、と言うところか。ブラックジャックファンとしては、少し期待外れの本作でした。
『加山雄三のブラックジャック』との関連性
『加山雄三のブラックジャック』にも、本作と同じ「春一番」がエピソードとしてあるが、これは完全に本作の焼き直し。片平なぎさが五十嵐めぐみになり、峰岸徹が中条きよしになっただけで、話の大筋は変わらない。脚本が同じジェームス三木だから、というのも関係しているのだろうが。
ブラックジャックは愛の伝道師？
本作冒頭今岡がブラックジャックの家へ向かうときにこんな言葉が流れる。
諸君らは愛を知っているか？愛を見たことがあるか？
他にも、ブラックジャックによる愛についての講釈が流れるわけだが、もちろんEDでも、ピノコと愛について語り合っている。
そこで思い出されるのが、『加山雄三のブラックジャック』のOPナレーションだ。
ブラックジャック、ある人は愛の伝道師と讃え、ある人は冷酷な守銭奴とののしる謎の天才外科医ブラックジャック。
天使は悪魔。悪魔は天使。世紀末を揺さぶる価値の混迷。神を見失った人間たち。
闇の中からブラックジャックは問いかける。
「この世に果たしてにロマンはあるか、人生を彩る愛はあるか」
やけに「愛」について熱弁するブラックジャック。ジェームス三木はブラックジャックと「愛」とを結びつけた上で脚色しているのだろうか？
確かに、原作においても様々な愛の現場に立ち会ってきたブラックジャックだが、個人的には「愛」という感情とブラックジャックという人物像とは少し歯車が合わないような気がします。皆さんはいかがですか？
*1:これは、風間史郎が殺人を行ったときが雨天であったため。
