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日本の片隅でひっそりと暮らすおじさんが書くブログ

必殺仕事人V旋風編 第1話「主水エスカルゴを食べる」

脚本:田上雄 監督:工藤栄一 ゲスト:あき竹城 中田浩二

幕府は福祉政策として石川島の埋立地に長屋を百軒建て、二千人の住民を収容できる公共住宅地を開発。その名も「石川島百軒長屋」。続々と引っ越しに来る江戸町民に主水(藤田まこと)も興味津々。その中に、昔の裏稼業の仲間であり、主水自らが殺しの世界に引きずり込んだ西順之助(ひかる一平)の姿があった。長崎で修行をし、医師として逞しく成長した順之助は、百軒長屋内に歯科を開業したと報告。更には、奉行所から百軒長屋に職員が出向される話をするが、「こんなところへ左遷されるトンマがいたら見てみてえや」と馬鹿にするも、左遷されたのは誰でもない主水本人であった。一気にやる気を無くす主水。10年前にうどん屋でも開業すりゃ良かったと橋の上で愚痴をこぼしているちょうどその時、殺気を感じ川を見ると、一人の男の死体が浮かんでいた。そして、傍には銀の折鶴が流れていた。

翌日、せん(菅井きん)と りつ(白木万理)はオランダ料理の試食会へ出かけるが、両人に左遷されたことはまだ言っていない。と言うか言えない。昨晩殺された男は「マムシの市兵衛」と言う大悪党。次郎吉(下元年世)と三郎太(東田達夫)という、これまた凶悪な弟がいることも判明した。しかし、下手人を探索しようにも長屋の番人ではどうにもならない。就業中にサボる主水のところに田中様(山内としお)が登場。普請方組頭・高森正太夫(中田浩二)と口入屋・上総屋久作(吉原正皓)を連れてやって来た。公共工事を行う際の従業員を百軒長屋の住人から募りたいと言うのだ。早速人足募集を行い、無職だった佐助(不破万作)も仕事が決まって、妻の お松(あき竹城)も大喜び。

さて、百軒長屋内は規則として商売を行ってはいけないのだが、それを知りながらも堂々と営業活動をしている便利屋・お玉(かとうかずこ)。リサイクル業を営む美女だが、もちろん主水は注意する立場。すると お玉は突然「あんたの裏稼業を奉行所にバラすよ」と脅しをかけてくる。惚けながらも緊張感が走る主水。警戒した主水は早速、順之助に探りを入れさせることに。お玉を尾行する順之助は、船宿・磯春で男と密会する現場を目撃する。

上総屋の紹介で働く人足は、仕事が終わった後に上総屋で酒と博打で大盛り上がり。ところがこれは甘い罠で、博打で借金を作らせ更に金を巻き上げる魂胆。一方、主水は次郎吉と三郎太に襲われる男を助け、二人を斬り捨てる。男の名は銀平(出門英)。お玉と会っていた男だ。お玉から仕事料を受け取っていたのでは?から始まり、「8年くらい前になるかな……。上方の虎って男が江戸で裏稼業の元締をやっていたんだが、夜鶴の銀平って凄腕の男がいると虎から聞いたことがあるんだ」と強烈な揺さぶりをかけるが、銀平は知らん振り。続いて お玉に市兵衛殺しの尋問を始めると「あたし達の仕事でやったんだ」といきなり白状。更には逃げ出し、人のいない場所で「私は虎の娘よ」と自らの素性を暴露。主水を仲間に引き込もうとするが、「所詮は裏稼業だ。いずれは追い詰められて仲間を失う破目になる。俺はあんな地獄は二度と見たくねえからな」と復帰を拒否。お玉は「宮仕えの微温湯が心地よくなったらおしまいってことよ」と罵るが、主水はそのまま立ち去って行く。

上総屋の罠に嵌められた百軒長屋の住民たち。佐助は奉行所へ訴え出るも、与力・鬼塚(西田健)は一向に取り合わず、挙句上総屋によって口封じされてしまう。お玉に全財産を売り払う お松。江戸を出て行く覚悟をするが、そんな お松に佐助の恨みを晴らす方法を持ち掛ける お玉。高森、上総屋一味を仕掛ける段取りを取る銀平と お玉だが、多勢に対し銀平一人は分が悪い。しかし、そこへ現れる主水と順之助。一見頼りなさそうな順之助のことを心配する お玉に対し「長崎で勉強してきました」と自信を持って返事する順之助。

高森一味を始末した主水だが、浪人二人に追われるヘマを犯してしまう。激闘の最中に飛び込んだ家は、何と鍛冶屋の政(村上弘明)の家だった。巴投げで一人を始末する政。「借りを作るのは嫌だからな。金は払うぜ」の主水の態度に、思わずニヤリと笑う政であった。

新シリーズの第1話と言うことで、少々あらすじが長くなってしまった。読みにくいことに関しては、どうかご容赦願いたい。

さて、「石川島百軒長屋」という限られた場所を舞台に設定した本作。これまでの、江戸全域を舞台にしてきた主水シリーズに対し、更に狭いコミュニティの中で繰り広げられる作品作りについては、製作スタッフにとって相当な賭けだったのではないだろうか。裏の稼業に携わる人間が、同じ長屋や一つ屋根の下に住んでいるシリーズ*1はこれまでもあったが、本作ではその括りに被害者を巻き込み、一つの世界を作り上げ完結させてしまおうという意図があった。これは、殺しに至るまでの部分を濃密に描くことが出来る反面、どうしても作品世界のスケールが小さく見られがちである危険性を孕んでいたわけだが、結果的に視聴者の印象としては、後者を含む退屈な部分だけが残ってしまったのだと思う。スタッフの中に、限定的密集劇を描ける人材がいなかったことも原因かもしれないが。

更にはキャスティングを一新したことによる「弱さ」も手伝ってしまった。第1話は各人の紹介をメインにしており、特に「虎」の名前を出して旧作との繋がりを強調してまでも お玉と銀平をフィーチャーした構成になっている感があるが、旧知の仲として登場する順之助も、年月は経ってもやはりひかる一平であり、加代のパシリをしていたイメージが抜けきれずインパクトに欠ける。政も開始してから40分くらいしないと出てこないし、作品自体が藤田主水の魅力のみにぶら下がる形になってしまった。しかし、藤田まことは当時舞台とスケジュールが重なっており、出てこない、セリフが少ない、といった回もチラホラ見られたことにより、主水が看板でなければいけないのに、その看板が抜けてしまっている状態になってしまった。これでは、さすがにショボーンだ。『水戸黄門』の風車の弥七的な、東野英次郎、横内正、里見浩太朗がほとんど出てこなくても代わりが務まるような、主水と同格の俳優が出演していればまだカバーも出来たのだろうが……。

この第1話だが、工藤栄一監督回にしてはちょっと……という感じだった。銀平が悪人に襲われるシーンや、お玉の大ジャンプ、あき竹城の逆ギレ、そして『裏か表か』を彷彿とさせるクライマックスの主水と浪人の対決など、要所要所で見せ付ける演出をし、レギュラーが増えたことによって起こる無駄な演出を出来るだけカットしてくれたが、やっぱり激闘編一話に比べるとねえ……。力の入れ方が違うのかもしれない。特筆すべきなのは、政が、まるで今回限りのゲスト出演のように描かれていること。これは物凄く良かった。『新必殺仕置人』の主水に似た、心地よい違和感があった。順之助のバズーカ砲が二人の体を貫通し、更には後ろの障害物に当たって爆発し二人が吹っ飛ぶ演出は、絶対に笑いどころだと思う。

「虎の娘」の設定は既に『必殺商売人』の頃から構想があったらしいが、こうして登場させた割には、いまいちパッとしなかったような気がする。でも、この作品は私の好きな『風雲竜虎編』へと繋がっていくので、きちんとしっかり大事にしていきたい……と思う。

*1:必殺仕置人、必殺からくり人、新必殺仕事人、必殺橋掛人など