脚本:保利吉紀 監督:原田雄一 ゲスト:黒田福美 西沢利明 高峰圭二
宗右衛門(睦五朗)から仕事のことで呼び出された秀(三田村邦彦)。秀は今までの仕事で自分たちを襲ってきた刺客について宗右衛門に詰め寄るが、宗右衛門は知らないようだ。さて、今回の仕事は長崎。相手は長崎奉行・戸倉出雲守(西沢利明)の奥方・紀和(黒田福美)である。「女か……」と思わず口に漏らす秀。距離にして332里、往復で約90日かかる出張仕事へ東吉(西郷輝彦)と共に出発するが、綾麻呂(笑福亭鶴瓶)は道中手形を無くしてしまい、奉行所の再発行が一ヶ月後と言うこともあり偽造することを決意。お銀(秋野暢子)と共に長崎へ。
長崎ではオランダ商館長……通称「カピタン」を引き連れて我が物顔で歩く紀和。その態度に夫も口を出せない。それもそのはず。紀和は将軍の落とし種であり、出雲守が長崎奉行にまで昇進できたのも奥方である彼女のおかげなのである。その紀和は着物や指輪など高価な買い物や貢物で遊興三昧に加え、通事である篠田吉弥(高峰圭二)と男遊びに耽るやりたい放題の日々。しかし奉行所は警戒が厳重でなかなか仕事には踏み切れない。そこで一計を案じたのが秀と お銀。この二人が紀和の前で夫婦喧嘩を行い、紀和の目を惹き付ける作戦だ。作戦は成功し、好色な紀和は秀の若い肉体を求め逆ナンパ。馴染みの呉服商・菱屋彦兵衛(須永克彦)の屋敷をラブホテル代わりに使おうと現れるが、菱屋は拒否。激高した紀和は篠田に命じて菱屋を無礼討ちにしてしまう。その姿に戦慄した秀は、部屋で紀和をビンタしてその場から逃走。おかげで秀は指名手配されてしまい、なぜか綾麻呂が連行されてしまうが、寸でのところで東吉が助ける。
ますます仕事がやり辛くなった秀たち。相変わらず警戒は厳重で隙がない。しかし、秀が偶然立ち寄ったカステラ屋で紀和の誕生祝賀会が催される情報を得たことにより突破口を見出す。宴会に紛れて紀和配下を次々に始末する仕事人たち。最後は秀が紀和を始末するが、その直後出雲守が現場に現れる!しかしその表情は、まるで紀和が死んで喜んでいるかのような笑みを浮かべていたのだった。「奉行が依頼人だった、ってわけか」「どっちもどっちだ」
天保4年8月29日。ようやく『まっしぐら!』の設定を活かし始めたな、という感じの作品。秀が元締に詰め寄るあたり、切羽詰った感じが伺える。そりゃ、命狙われてるんだから精神的にも辛いわな。しかし、仁十郎が秀たちの仕事の行き先を正確に掴んでいるあたり、宗右衛門と仁十郎の内通は視聴者にバレバレなんだけどね。
さて、今回の仕事は長崎奉行……の奥方。後期シリーズ常連女優の黒田福美が悪女を熱演なのだが、その影に隠れるかたちで胡散臭く暗躍(?)する西沢利明の存在。何かあるな、と思っていたら、やはり最後の最後にやってくれました。確かに紀和は悪人ではあるが、結局奉行にとっても目の上のタンコブであり、夫のしてのプライドさえも傷つけられた……だから暗殺を依頼した、と言うわけだ。どちらかと言えば私利私欲の面が強い今回の依頼だが、この話により、宗右衛門が依頼人の私利私欲のための依頼でも引き受ける、というダークサイドの一面を窺い知ることができる。このあたりから元締への不信感も募らせていく秀。
仕事のシーンでは、綾麻呂と お銀の殺しが侍に見られてしまい、慌てて お銀が口を塞ぐなどちょっと一捻り。それ以外の場面では、ふんどし一丁で眠ったり、カステラを棒のまま齧りついたり、秀が紀和の誘いに乗らなかった事に対し「たまには抱いたれや!」のセリフなど、綾麻呂関連のイベントが目を惹く。ある意味『水戸黄門』の八兵衛みたいな存在と言っても良いかも。同じ旅モノだし。
秀がオランダ人を初めて見た?
この作品で秀と東吉がカピタンを見た時、東吉が「カピタン(異人)を見るのは初めてか?」と聞いたのに対し、「ああ、驚いたぜあのデカさには」と答えている。ところが、秀は『仕事人大集合』でカピタンの妹・マリアと一緒に旅をしているし、巨大な黒人を始末している。異人にはある程度免疫があるはず。ちょっとおかしな二人のやりとりだと感じた。