脚本:安倍徹郎 監督:松野宏軌 ゲスト:清水紘治 早川雄三 西田良
ホームシックで江戸へ帰りたいと泣くうさぎ(真行寺君枝)に唐十郎(沖雅也)は「江戸へ帰れるかもしれん」。今回の仕事の依頼はおえい(吉田日出子)から。内容は何と父・北斎(小沢栄太郎)を殺してくれというもの。半信半疑で江戸へ潜入するお艶(山田五十鈴)だが、北斎から事情を聞くと、北斎の絵が江戸で大人気となり、版元が押しかけ満足に絵を描けなくなったので、死んだことにして好きな絵を描く生活にも戻りたいから殺したようにしてくれ、とのこと。お艶はわざと版元連中が集まる料亭で狂言殺人を演出。作戦は見事成功し北斎親子は晴れて自由の身。しかし裏には泥臭い版元・梅屋重兵ヱ(早川雄三)が係わっていることに不安が過ぎるお艶。梅屋は一座を付回し唐十郎を「殺し屋」と見抜いた浪人・赤星銀平(清水紘治)を用心棒に雇い入れ何かを企む。
江戸を離れ放蕩を繰り返す北斎親子。梅屋から借りた金も使い果たすが、宴会に乱入してきた役者・中村歌八(西田良)の面白い顔に絵描きの好奇心がくすぐられる。完成した役者絵に「俺は生まれて初めて生きた人間の顔を描いたんだ!」と興奮する北斎は急ぎ江戸へと戻る。江戸では、梅屋と守山藩勘定方が北斎の絵の値段について腹黒い算段をしていたが、北斎が戻ってきたことに顔色は急変。北斎を蔵へと監禁し、北斎の役者絵を「東洲斎写楽」の名前で売り出すのだが、自分の名前を後世に残したい北斎は梅屋に激しく反発。蔵を抜け出し他の版元へと向かう北斎を狙うのは赤星。しかし赤星は梅屋の手代を殺し、梅屋のやり方に反発し守山藩士と斬り合いに。その様子を一心不乱に描く北斎だが、赤星は斬られ、北斎もまた斬られてしまう。
お艶は北斎の恨みを、唐十郎は赤星との約束を果たせなかった恨みを梅屋一味にぶつける。「従千住花街眺望の不二」に描かれた守山藩の行列が赤く浮かび上がり驚く梅屋一味。その直後お艶たちに始末される。江戸を離れていく座員だが、屋根の上には昨日死んだはずの北斎が!「ええがな、ええがな。生きようが死のうが、そんなことはどうでもええがな」
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突然の最終回、といった感のある今回の作品。タイトルには北斎の「富嶽三十六景」で最も有名と思われる「凱風快晴」を持ってきているが、実際に赤く光るのは「従千住花街眺望の不二」の行列部分である。
さて、今回の最終回は冒頭から唐十郎を付回す飄々とした人殺し・赤星や、裏街道を歩いてきた一癖ある版元・梅屋などが暗躍。赤星は江戸で殺し屋となるため唐十郎の殺しを「観察」するために目を付けており、唐十郎と対決まで。唐十郎に怪我を負わせる程の剣の腕前だが、気の抜けたような喋り方などどこか憎めない。北斎暗殺を梅屋から指示されたときも、「てめえら汚ねえんだよ……それが梅屋のやり方か」と守山藩士と対決し善戦するも多勢に無勢で斬り殺される。死ぬ間際の「俺も汚ねえんだよな」の一言も捻りが効いていて良い。赤星の死に「浪人さん……俺との(対決する)約束はどうなるんだ?」の言葉に、殺し屋同士の男の心の繋がりを感じる。
梅屋は北斎の狂言殺人を入れ知恵した人物。北斎が殺される(芝居)ところで、仲居に「履物を持ってきなさい」と妙に落ち着いているところから容易に察することが出来るが、これも北斎の絵の高騰を目論んでのこと。天衣無縫とも言うべき北斎親子を唆すくらいどうということもなかったかもしれんが、最終的には北斎殺害までを企み、お艶たちには「富嶽百景殺し旅」のことを匂わせながら「いずれあなたに殺しを頼むかもしれませんよ」と不敵な笑みを浮かべる煮ても焼いても食えなさそうな人物。そのお艶の予感も的中する。
北斎が役者絵に開眼するシーン。モデルが西田良というのもまた凄いな。その時には名前を名乗れないから「北斎の師匠の”アホクサイ”だ」。完成した役者絵こそ「生きた人間の顔」と自画自賛した北斎は、梅屋で製作に励む。ここで写楽の代表作が次々と挿入されていく。だが写楽の名前を入れた梅屋に向かって「しゃらくせえ!」。目の前で人が斬り合っているにも係わらず筆を走らせそのまま斬られる北斎。「すべすべした肌の女を描きたいんだ!」と最後まで絵に意欲を燃やしたまま命は尽きる。
あれ?そういや元締・永寿堂は……?
老いてなお盛んな北斎
お艶が北斎親子と一緒にそばを食べるシーン。山田五十鈴と小沢栄太郎という重鎮同士が面と向かってやりとりをする非常に重みのあるシーンだが、話の中身は猥談?
女は形が面白えんだ!形だ!俺は6つの齢から絵を描いているが、この齢になってやっと”モノ”の形が見えてきたんだ。お艶さん、今度お前さんの”アレ”を描く。女は、”アレ”の形が一番面白えんだ!
アレを描くため実の娘であるおえいに夜這いまでする北斎の執念は凄い。
必殺シリーズにおける「北斎」
「大奥春日野」では東野英治郎が演じており、引越しの最中に主水たちと出会うというもの。セリフはなく終始ニコニコ。ここでは、北斎は「しゃれこうべ」を描き、娘のおえい(黒木香)が肉付けをして絵を完成させるというもの。何でも「声」から人相を描くことが出来るという特技を持ち、首謀者が春日野であると暴くきっかけを生んでいる。
「必殺!主水死す」では、鈴木清順が演じている。娘のおえいは美保純。ある日ふと描いた将軍・家定(細川ふみえ)の出生の秘密に纏わる絵が原因により暗殺されてしまい、おえいの依頼により主水の運命の歯車が終焉へと向かっていく事件のきっかけを作った人物でもある。
「必殺まっしぐら!」では、毎回登場する史実の人物の一人として。老いてなお盛んなところを見せ付けている。
他にも出演している作品はあるかもしれんけど、覚えているのはこれくらい。
「凱風快晴」「従千住花街眺望の不二」
http://www.geocities.jp/zdh/fuji36.htm ← 「33. 凱風快晴」「15.従千住花街眺望の不二」
「凱風快晴」。日本人なら必ずどこかで目にしているだろう。実際赤く浮かび上がるのは「従千住花街眺望の不二」のほうで、手前の行列が守山藩の藩士たち、右のほうが山田の人足という設定で、予め守山藩勘定方の悪事を絵に込めていたのだ。