自殺しようとした花魁・藤紫を助けた又之助。男に裏切られ金を持ち逃げされたことが原因だが、この藤紫はおえんの先代・喜の字屋仁兵衛が最後の仕事として取り立てた聖天町上州屋の娘だった。この取立てが原因で上州屋は潰れたため、藤紫は付き馬屋を憎んでいた。おえんは藤紫への罪滅ぼしの気持ちと、藤紫の女の悲しみを汲んだことにより、新五郎の反対を押し切り男からの取り立てを単独で行うことに。
男の正体は立花亭千代吉と名乗る板前崩れなのだが、千代吉は藤紫以外の女からも金を巻き上げていたことが判明。藤紫の純情を踏みにじる千代吉に怒りを覚えるおえんだが、千代吉にはある目的があって……。
今回の話はおえんが情に絆されてしまい、馬屋のケジメを忘れて取り立てを行ってしまうもの。千代吉役には清水健太郎。
藤紫の千代吉を想う気持ちは非常に強いものであり、六十五両もの大金を持ち逃げされたとは言え、千代吉が贈ってくれた虫かごを健気に見つめ続けるといった一途な気持ちを見せていた。おえんは自分を犠牲にしてまで男に尽くす藤紫に女の悲しみを理解し、また先代が行った付き馬に係る藤紫への負い目もあってか、千代吉から六十五両を取り返してやろうと提案。新五郎は馬屋のケジメが付かないと一人降りるものの、又之助と浜蔵はおえんに付いて調査を開始する。
千代吉は藤紫だけではなく品川一帯にまで足を伸ばして遊女から金を搾り取っていた。もっとも、これは遊女が千代吉に惚れ抜いているので「貢ぐ」という形なのだが。千代吉はおえんの娘・おさとにまで手を出していたものだから、おえんも半ば私情を挟んで調査をしていたのだが、千代吉の身辺を探る内におえんは命を狙われ怪我をしてしまう。
千代吉にはある目的があった。それは、父親が営んでいた立花亭を買い戻すことだった。千代吉の父は借金をこさえてしまったことから、立花亭は山吹の主・藤兵衛という男のものになっていた。父親が抱えた借金五百両全て払い終われば、山吹は千代吉の手によって再び立花亭の看板を掲げることができるわけだが、実はこの一件は仕組まれたものであり、藤兵衛が架空の借用証文を作って借金をでっち上げたことがきっかけだったのだ。
おえんから真相を聞かされた千代吉は藤兵衛一味に殺されてしまうし、六十五両を藤兵衛から巻き上げたところで藤紫の心は閉ざされたままだし、おえんは自分が馬屋の掟に背いてまで行った今回の取り立てが本当に正しいことだったのかどうか深く考え込んでしまうしで、まさにサブタイトル通り「情が仇」となってしまった一件であった。「あっしたちのやっていることは、人助けなんですよ」と最後におえんを諭す新五郎の優しい慰めは、おえんの胸の底に強く染み入ったに違いない。
さて、この作品は必殺シリーズの劇判流用が8割以上であり、その多くは『必殺必中仕事屋稼業』『暗闇仕留人』『必殺仕業人』『必殺仕事人V激闘編』の曲がメインなのだけれど、今日はなかなか面白い曲が使われていたのでご紹介。品川でおえんと千代吉が初めて出会うシーンで流れる曲は、『必殺仕置屋稼業』の中で使われた「業苦」というタイトルの別バージョン。多分、必殺本編でも未使用曲なんじゃないかな。この「業苦」という曲自体は必殺シリーズでも数多く流用されている曲の一つなんだけど、この別バージョンは伴奏のテンポやピアノソロなんかがちょっと違っていて新鮮でした。
キャスト
ゲスト
清水健太郎/丸山秀美/玉生司朗/えがわあつこ/鳴尾よね子/阿波地大輔/伝法三千雄/浜田雄史/加藤正記
スタッフ
原作 | 南原幹雄(新潮文庫・小説推理より) |
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チーフプロデューサー | 江津兵太(テレビ東京)/桜林甫(松竹) |
プロデューサー | 小川治(テレビ東京)/中嶋等(松竹)/斉藤立太(松竹) |
脚本 | 高山由紀子 |
撮影 | 伊佐山巌 |
照明 | 井上武 |
美術 | 倉橋利韶 |
録音 | 生水俊行 |
編集 | 園井弘一 |
殺陣 | 宇仁貫三 |
装飾 | 清水与三吉 |
調音 | 鈴木信一 |
記録 | 竹内美年子 |
助監督 | 北村義樹 |
制作主任 | 渡辺寿男 |
進行 | 楳村仁一 |
スチール | 佐々木千栄治 |
広報担当 | 高橋修(テレビ東京) |
装飾 | 高津商会 |
衣装 | 松竹衣装 |
結髪 | 八木かつら |
装置 | 新映美術工芸 |
現像 | IMAGICA |
協力 | 京都大覚寺/鈴乃屋/エクラン演技集団 |
主題歌 | 「雨あがり」 作詞:麻こよみ/作曲:猪俣公章/編曲:小杉仁三/歌:坂本冬美(東芝EMI) |
製作協力 | 京都映画株式会社 |
監督 | 高瀬昌弘 |
製作 | テレビ東京・松竹株式会社 |
次回予告
江戸の町に吹き荒れる油不足の嵐。巧妙に仕組まれた番頭殺しの裏に、十年前と同じ不正のニオイが…「切った張ったは稼業じゃないが…喜の字屋おえん、ケジメつけさせてもらいます」次回、付き馬屋おえん事件帳、ご期待ください。 → 江戸の黒い霧 けじめつけさせてもらいます
*今回から山本陽子の口上が挿入