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日本の片隅でひっそりと暮らすおじさんが書くブログ

山田風太郎 くノ一忍法帖

大坂夏の陣にて自害した豊臣秀頼であったが、千姫白島靖代)の画策によりお由比(葉山レイコ)、お喬(水野美紀)ら真田家に縁のあるくの一たちにその子種が植え付けられていた。
徳川家康(遠藤太津朗)は服部半蔵(我王銀次)ら伊賀忍者に秀頼の子を宿した女たちを探らせ、豊臣家の血筋を絶たせることを厳命。半蔵配下の手練の忍たちは次々に子種を宿したくの一を見つけ出し葬っていくが、信濃忍法により秀頼の子種は様々の女の腹を渡り、最後に子種を宿したのは何と……。

山田風太郎の時代劇を、必殺シリーズのスタッフが映像化したビデオシリーズの一作。脚本は『必殺シリーズ』『混浴露天風呂連続殺人』『魔界転生(1981年版)』などを代表作に持つベテラン・石川孝人。監督は『必殺シリーズ』などで知られる津島勝。スタッフの中には、現在放送中の『必殺仕事人2009』のスタッフも幾人か参加している。

当時必殺シリーズのスタッフはエロチシズムを前面に押し出した時代劇作品を幾つかシリーズとして製作しており、この他にも『おんな犯科帳(脚本:大工原正泰 監督:津島勝 主演:石原良純)』、『女犯十手仕置(脚本:中本博道 監督:酒井信行 主演:渡辺いっけい』など、必殺シリーズ鬼平犯科帳といった正統派な時代劇とは一線を画す時代劇を送り出している。ちなみに、これらビデオシリーズのほとんどで遠藤太津朗が出演しているが、この作品でも徳川家康役を演じている。

話の筋立てとしては、豊臣家の血筋を根絶やしにするために家康が放った伊賀忍者たちから秀頼の子種を守るため、くの一が奇妙で奇抜な忍術で凌いでいく……といったもので、やがて徳川と豊臣の争いから、男と女(滅ぼそうとする男と、子を守りたいという女=母性の強さ)の争いへと転じていく。

攻める伊賀忍者たちと守る真田のくの一たちとの間で展開される忍法がユニーク。家康からの命を受けた服部半蔵が呼んだのが、般若寺風伯と鼓隼人の二人。般若寺風伯は女体に宿った胎児の鼓動を聞くことができるという男。この男が使う「忍法・日影月影」は相手を意のままに操ることができる忍法で、この忍術に掛かった女は、自ら腹を突いて命を落とすことも厭わない。彼らによって一人、また一人と子種を宿したくの一が死んでいく中、くの一側は自分に宿った子種を安全な人物へと次々に移していく。そのために行われるのが、「信濃忍法・やどかり」と「信濃忍法・やどかし」である。孕んでいる女が自分の胎児を別の空腹へと移す際、孕んでいる側が「やどかり」を、空いている側が「やどかし」を行い移すわけだが、この時に女二人が取るのが性行為で用いる「対面座位」の体位。両者の女性器を合わせて胎児を移すという……何とも胡散臭いというか…何というか。劇中では水野美紀がこの忍術(やどかしの方)に挑戦しています。処女なのに胎児を移されて妊婦になってしまうお喬……。

伊賀忍軍との戦いでは、女ゆえに使える独特の忍法で男たちを撹乱。お由比が使う「信濃忍法・忍法夢幻泡影」は女性器から泡が出てきて、その泡に包まれた男たちは赤子へと退行するという忍法。この忍法で伊賀忍軍を巻き、相模の国の山中へと逃げ延びたお由比、お喬、千姫の三人。お由比の腹の中では秀頼の子が順調に育っていた。ところが、追っ手である伊賀忍者の一人・鼓隼人に見付かり、お由比は腹を強烈に殴打され瀕死に。鼓隼人はお喬が始末するが、秀頼の子種である胎児は……千姫は決断をする。「私に信濃忍法・やどかりを」と。既に腹に宿る胎児は育ちすぎている。忍法・やどかり自体が成功するか分からないし、お由比自体の体力も持つか分からない。千姫は最後の賭けに出たのだ。

結果、母体であるお由比は命を落とすものの、秀頼の子種である胎児は千姫の腹へと宿った。やがて出産の時を迎える。ところが、千姫の隠れ家を服部半蔵自らが突き止めてきた。半蔵は残ったお喬を殺し、千姫が産んだ豊臣家の血筋を絶とうとする。しかし、千姫にはもう徳川家も豊臣家も無かった。平和な世で、自分が産んだこの子供と無事平穏に暮らしていければそれで良いと考えていた。半蔵は赤子に刀を向けるも、その無垢な表情に刃を突き刺すことができなかった。忍の非情さも、無垢な赤子と赤子を守ろうとする母の強さには勝てなかったのだ。

天和二年。家康は初孫が誕生したことも知らずこの世を去った。阿福が作った鯛の天麩羅を美味いと言っているシーンがその前に挿入されているが、鯛の天麩羅に当たって死亡した説もある……といったことがナレーションで言及されている。

思いっきり安上がりなセットと衣装と配役。ポルノ女優をメインに据えているため、ギリギリなアングルからの過激な性描写や乱発される裸体など、ここでしかできない演出こそが特徴なのだが、かといって物語が途中で放棄されるといったこともなく、一応の物語として完成を見せてはいる。今から考えればあまりにチープなCGや合成、仕掛けがあって思わず笑ってしまいそうになるが、当時のスタッフからすれば、出来うる技術を駆使した最大限の工夫というわけなので、それもご愛嬌のうち。なお、くの一たちの衣装は当時流行ったであろう派手な原色系を基調に、キラキラのラメが入ったものを着用している。

伊賀忍軍との戦いは激しさを増していくわけで、もちろん殺陣のシーンも。葉山レイコ水野美紀といったくの一たちが大掛かりな殺陣を見せるのだが、さすがに水野美紀は殺陣が上手い…気がする。ジャパンアクションクラブが参加しているので忍者アクションも迫力アリ。

キャスト

白島靖代

我王銀次

葉山レイコ/丘咲ひとみ/水野美紀/小松美幸*1

石倉英彦/登のぼる/渡浩行/五島拓弥/増田葉子/細谷千絵/野崎佳積/杉本笑/渡辺由架/藤原ひろみ/村上浩司/新島愛一朗/山下和哉/麻立丸/平井靖/ジャパンアクションクラブ/東京宝映/エクラン演技集団/松竹芸能タレント養成所

ナレーション:西村知道

丹古母鬼馬二

伊藤敏八

遠藤太津朗

スタッフ

製作 角川勇二
プロデューサー 明石渉/下飯坂一政
原作 山田風太郎(角川文庫刊)
脚本 石川孝人
撮影 藤原三郎
照明 中山利夫
美術 太田誠一
編集 園井弘一
録音 田原重綱
調音 鈴木信一
装飾 中込秀志/草川啓
記録 野崎八重子
スチール 牧野譲
殺陣 布目真爾
進行 岡田圭介
プロデューサー補 保科仁志(松竹芸能
装置 新映美術工芸
床山 八木かつら
衣装 松竹芸能
現像 IMAGICA
助監督 田中幹人/原田真治
製作主任 阿曽芳則
ロケ協力 京都大覚寺/国宝姫路城
製作協力 松竹芸能株式会社/京都映画株式会社
監督 津島勝
製作 すみかわフィルムアーツ/ギャラクシーワン東北新社

くノ一忍法帖 [DVD]

*1:小松みゆき