非道な辻斬り事件が横行する中、南町奉行所では江戸で一、二を争う笠原道場の師範・笠原監物に出稽古を依頼。一方、縁日の屋台で侍に絡まれる源太だが、それを救ったのが佐藤数馬という青年剣士。彼は笠原道場の門下生の一人だった。彼との出会いをきっかけに、数馬の母・みちに心惹かれる数馬。
数馬は監物の息子であり師範代を務める太平に見込まれ付け人となる。ところが、太平には自分よりも力の無いものに横暴と殺傷を働く悪癖があった。そのことを知った数馬は笠原道場を辞めたいと漏らすが、太平の逆鱗に触れた数馬は、稽古と称したリンチに遭って死亡する。何とかして恨みを晴らしてやろうとする源太だが……。
笠原監物役にはシリーズ常連の目黒祐樹、監物の息子・太平役は浜田学(父はこれまた必殺シリーズ常連の浜田晃!)、佐藤数馬役には忍成修吾、数馬の母・みち役には賀来千香子……今回も豪華なゲストである。今回の悪役は、二世俳優同士が親子を演じて結託するもので、こちらもなかなか感慨深い。なお、公式サイトの「あらすじ」にはサブタイトルらしきものが掲載されているため、このレビューでもそれに準じた形でサブタイトルを付けることにする。公式サイトで挙げるんだったら、本編で表示させてくれよ…とは思うが。
河原(吉右衛門版鬼平犯科帳のオープニングで吉右衛門が斬りまくる場所)での凄惨な辻斬りシーンで始まる今回のお話。歪んだ欲求が生み出す辻斬り事件と並行して、自らの息子を世に出したい親の想いが善悪それぞれで交錯する。
江戸で一、二を争う笠原道場の師範・笠原監物は若年寄からの覚えもめでたく、近々息子である師範代・笠原太平を剣術指南役に…との声を頂戴するほどの名声の持ち主。将軍家指南役の道も夢ではない。この道場に通う佐藤数馬も剣術のセンスが良く、監物も一目置いているほど。この数馬、五年前に父を亡くしてからと言うもの母・みちが一人で育て上げた自慢の息子。剣の道での仕官を夢見ており、数馬もその期待に報いるべく必死に努力している心根のキレイな親子だ。このみちに心惹かれてしまったのが源太。プレゼントをしようとお菊に相談を持ちかけるあたりがかわいい。
数馬、太平に見込まれ付け人になったまでは良かったが、それが転落への始まりでもあった。太平は自らの剣の腕を鼻にかけ、貧乏暮らしの町人たちを徹底的に見下し暴力までをも振るう始末。挙句の果てには、河原で生活をしているホームレスをゴミのように斬り殺す人間のクズだったのだ。このことを知ってしまった数馬は、太平には付いて行けぬと笠原道場を辞めたいとみちに漏らしてしまう。みちから事の次第を聞いた監物は、太平にその事を問いただす。癇癪を起こした太平は、取り巻きらと共に稽古と称したリンチを行い、数馬を殺してしまうのだった。奉行所は「稽古中の事故死」として取り上げないことに。必死で育ててきたみちは放心状態に。
太平が辻斬りを行い、数馬をリンチで殺したことを知った監物。太平を若年寄の剣術指南役にとの声が上がっていることを伝え、ほとぼりが冷めるまで旅に出るよう厳命。そのことを聞いてしまったみちは逆上し、監物に罵りの言葉をぶつけるも監物はみちを刺し殺す。「お前が息子を世に出したかったように、わしも息子を世に出したいのだ」と。みちの恨みを晴らすため、源太が頼み人に、涼次が依頼料を出すことに。
権力者の馬鹿息子たちが面白半分に町人を斬殺し、それを権力者が庇い恨みへと繋がっていく……どことなく『必殺仕事人』17話の「鉄砲で人を的にした奴許せるか?」に似た展開だが、こちらはそれを諌める人間が逆にリンチに遭って殺されるという非情なもの。公式サイトの「あらすじ」ではこのリンチを「かわいがり」なんて言葉を使って表現しているけれども、やっぱり時津風部屋の一件を想定したものなのだろうか。だとしたら少々不謹慎な気もするけれども。
色んな展開を期待させる内容だったが、結果的には一番スマートな展開というか。太平が監物に謹慎を命じられたときは殺意に似た視線だったので、太平が監物を殺してしまうのか…とか思ったし、監物が前々からみちに惚れていて、無理やり犯してから殺してしまうのか…とも思った。どれも必殺的には有り得る展開だ。監物は温和な態度であっただけに、息子の非道を知ったときと、それを庇う態度に出る時の豹変はもうちょっと大袈裟でも良かったように思う。『必殺スペシャル・秋! 仕事人vs仕事人 徳川内閣大ゆれ! 主水にマドンナ』の脇坂常陸守が豹変するようなインパクトが欲しかったな。『十手無用』の11話「目刺し十匹うらみ武士」の石橋蓮司ほどの衝撃は必要ないけれども*1。
恨み晴らしに至るプロセスもいまいち迫力に欠ける。源太が依頼人で、涼次がみちに支払うはずだった手間賃を依頼料にするというのもどうも。これは色々とやり方があったように思う。斬られて死んだ町人たちの親族から依頼を受けるとか。太平たちが辻斬りをしていたのは源太が裏を取っているわけだし、貧乏な町人たちからの切なる願いというもう一つの恨み晴らしがあれば、仕置きに更なるカタルシスを加えることが出来たんじゃないかな。
殺しのシーンは上出来。剣客たちを酔わせて油断させるというお約束な展開だが、涼次の謎の決め台詞は無いものの、スルメをくわえさせたまま殺すとか面白い。そして何より圧巻なのが主水の殺し。相変わらず小刀でブスリだが、この時の「殺しは俺のほうが上だぜ」は久しぶりに痺れさせてくれた。『必殺仕置屋稼業』の1話でも似たセリフがあったが、今は年季が入っているだけに迫力が違う。これだもの、太平もすくみ上がって逃げ出すはずだよ。
それにしても、松岡昌宏の妙に気張った大袈裟な演技は何とかならんか。
スタッフ
脚本 | 岡本さとる |
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音楽 | 平尾昌晃 |
主題歌 | 「鏡花水月」The SHIGOTONIN(ジャニーズ・エンタテイメント) |
美術監修 | 西岡善信 |
撮影 | 藤原三郎 |
照明 | 林利夫 |
美術 | 佐藤絵梨子 |
録音 | 中路豊隆 |
編集 | 園井弘一 |
スクリプター | 野崎八重子 |
殺陣 | 宇仁貫三 |
装飾 | 木下保 |
小道具 | 小田忍/上田耕治 |
セット付 | 春田耕市 |
調音 | 上床隆幸 |
効果 | 藤原誠 |
映像技術 | 川楠敏之 |
HD編集 | 中尾逸子 |
VFXスーパーバイザー | 佐々木宏 |
CGデザイナー | 鶴見祐輔/井上貴祥 |
コンポジター | 三上貴彦 |
スチール | 北脇克己 |
特技小道具 | 布目真爾 |
絵 | 冨士宮隆 |
メイク | 佐々木博美 |
進行 | 山田智也/沖田昌紀 |
演技事務 | 山緑美春/松本保子 |
助監督 | 井上昌典 |
製作主任 | 溝口豊 |
製作担当 | 黒田満重 |
プロデューサー補 | 岸岡孝治/飯田新/西原宗実/渡邊竜 |
宣伝 | 高内三恵子/川井真紀/平野三和 |
編成 | 槇野博信/菊池寛之 |
ホームページ制作 | 木村恵/黒川幸子/新井麻実 |
モバイル | 江崎仁祐 |
衣装 | 松竹衣装 |
結髪床山 | 八木かつら |
装置 | 新映美術工芸 |
装飾 | 高津商会 |
タイトル | シュプール/竹内志朗 |
特技 | 宍戸大全軍団 |
技術協力 | IMAGICAウェスト |
人形浄瑠璃 | あわ工芸座/阿波人形浄瑠璃研究会青年座/徳島県立城北高等学校民芸部 |
コーディネート | 梅津龍太郎 |
音楽協力 | 株式会社テレビ朝日ミュージック/エービーシーメディアコム |
ロケ協力 | 大本山 随心院/総本山 仁和寺/京都 大覚寺/和知人形浄瑠璃 |
衣装協力 | 石勘株式会社/小紋屋 高田勝 |
題字 | 糸見渓南 |
語り | 春風亭小朝 |
製作協力 | 松竹京都撮影所 |
チーフプロデューサー | 森山浩一 |
プロデューサー | 内山聖子/柴田聡/山川秀樹/武田功/三好英明 |
監督 | 原田徹 |
制作 | ABC/tv asahi/松竹株式会社 |
*1:あれは本当に凄かった。鳥肌が立った。