あらすじ
佐渡金山で金を採掘する水替人足たちが暴動を起こし脱走。人足たちは元・無宿人の暴れ者たち。瞬く間に幕府へ差し出すための金200貫を積んだ御用船を占拠した。御用船は出雲沖で沈み、金200貫は海の底へ沈んだと思われた。
金座・後藤家の千勢(山本陽子)と後藤家分家・三之助(岸部一徳)、勘定奉行・太田玄蕃頭(西岡徳馬)は、このことが世間へ漏れると金相場への影響が懸念されるとして金座の職人たちに口外を禁ずるも、その噂は瞬く間に江戸市中へと広まってしまう。これらの事件は、金の値を吊り上げるため後藤家と太田が仕組んだ企みであった。太田たちの目論見どおり、金相場が高騰することを睨んだ江戸庶民により金の買い付け騒ぎが起き、金の値は瞬く間に値上がりしていく。
後藤家の女中・お浅(酒井法子)は幼馴染みの金座裁量役・与七(白竜)へ想いを寄せていたが、与七が乗る船が沈む夢を見て錯乱する。そして、それが事実であったことが分かり川へ身を投げようとするが、政(村上弘明)によって止められる。政とお浅と与七は故郷が同じ佐渡の幼馴染であり、政はお浅に惚れたことで仕事人から足を洗っていた。
主水、秀(三田村邦彦)、お歌(光本幸子)、夢次(山本陽一)に、鎌イタチのおむら(名取裕子)配下の仕事人が接触してくる。大きな裏の仕事があり、主水たちに助てほしいというのだ。頼み人は千勢で、後藤家所有の御用船を沈め金を奪った無宿人たちを始末してほしいという内容。200両の依頼料に目を輝かせるおむらだが、主水たちは仕事の筋が気に入らないと助働きを断る。
深川・洲崎に漂着した与七と無宿人たち。一方、与七と洲崎で落ち合う約束をしていたお浅も、政と一緒に洲崎へ来ていた。佐渡から持ち出した金を隠し、分け前を持ってその場を離れようとする与七と無宿人たちだが、そこへおむら配下の仕事人たちが現れ無宿人を次々に始末していく。与七と鉢合わせとなった政は、匕首を向けてくる与七を抑え込もうとするが、一瞬の隙を突いたおむらの櫛が与七の首筋を切り裂いた。そして、与七が絶命した瞬間を目撃してしまったお浅は、気を失ってその場へ倒れこんだ。
仕事人をつかい無宿人の口を封じたまでは良かったが、政に無宿人殺しを見られたことが気がかりな千勢は、おむら配下の仕事人たちを地獄組に始末させる。唯一生き残ったおむらは、主水に改めて協力を依頼。主水たちもこの事件のからくりと黒幕について調べることとなった。
想いを寄せる与七が目の前で殺され、精神に異常をきたしたお浅は政のことも分からなくなり、ただ洲崎で与七を待つだけの生活を送っていた。お浅は、毎夜地面から浮き上がる青白い炎を「与七が乗る船が帰ってくる印。幸せの船がくる印」であると信じ祈り続けていた。やがてお浅は、その神秘的な言動とたたずまいから、江戸の人々から教祖のように崇められるようになり、洲崎は「幸せの船」を待つ人々で溢れかえるようになる。
青白い炎は、地面に埋まっている金に施された水銀が地面から蒸発したものだと秀が話す。そこで、洲崎に人が集まっている最中に、仕掛け花火で金を打ち上げ頭上から金の雨を降らせようと提案する。大勢の江戸町人が集まる中、仕掛け花火は成功し、後藤家が隠し持っていた金は町人たちの頭上に降り注いだ。少しでも多くの金を拾おうとする町人たちで大混乱が起こる中、お浅は地獄組に始末され、また用済みとなった千勢も消されてしまう。今わの際の千勢から依頼料を受け取ったおむらは、その金を主水に託す。
政はお浅が死んだことで我を失い、一人黒幕一味を始末しに向かおうとするも秀に止められる。惨めな生き方しかできなくなった政を見た主水は、秀に引導を渡すよう告げる。そして、千勢の依頼を受けた仕事人たちは、太田、三之助、そして地獄組が待つ後藤家の寮へと乗り込む。
必殺シリーズの劇場用作品第5作目。工藤栄一、深作欣二に続く巨匠として、シリーズ初演出の舛田利雄を監督に迎えた。脚本は吉田剛。劇場版必殺は『必殺!ブラウン館の怪物たち』以来の登板であり単独脚本である。本作はテレビシリーズ『必殺仕事人!激突』の設定をベースにしており、登場人物も(一部キャストは違うが)共通している。
「金相場の高騰により私腹を肥し出世を目論む勘定奉行と、その手先を務める金座」という非常に分かりやすい悪人像。この悪人たちがどのような方法で悪事を働き、どのような被害が生まれ、誰が悪人たちに恨みを抱き、その恨みをどうやって仕事人が晴らすのか。その切り分けと構成が重要なのだが、とにかく無駄が多い。仕事人側も悪人側も、「やらなくていいことをやって話をややこしくしている」展開が繰り返される。この作品の企画自体がいつスタートして、実制作はいつからスタートしたの?って思うほど練りこまれていない。バブル、オウム真理教をはじめとした新興宗教、スピリチュアルと、当時話題になっていた時事要素をこれでもかと盛り込んではいるものの、土台のストーリーが非常に脆いため時事要素がまったく生かされていない。後述の既存の脚本をベースに、これらの要素をただくっ付けただけといった印象にも見てとれる。
まず、脚本のベースは吉田剛氏が過去に手掛けた『必殺仕事人III(1982)』第18話「月の船を待っていたのは秀」で間違いない。そこへ、同じ吉田氏が手掛けた『必殺仕事人ワイド 大老殺し 下田港の殺し技 珍プレー好プレー』の中で登場した佐渡の暴動鎮圧部隊「地獄組」を、若干の設定変更を加えて再登場させている。
悪事自体が非常にお粗末でツッコミどころが満載。地獄組が無宿人を脱獄させて御用船を奪い、御用金を隠して金の高騰を目論む。その筋書きを書いたのは勘定奉行の太田と金座後藤家。その流れは良いのだが、無宿人を始末して口封じを行うのに、なぜわざわざ仕事人を利用しなければいけないのか。後藤家所有の御用船を沈没させられ使用人たちが殺された。その恨みを晴らしたいというのは一応の筋が通っている話だが、結局その仕事人たちを地獄組が口封じで始末するのであれば、間に仕事人たちを挟まず最初から無宿人たちを地獄組に始末させれば良いのではないだろうか。例えばこの流れで与七とお浅を被害者にしておき、最終的にお浅を依頼人にして悪事を調べ暴いていくほうが理にかなっているように思うし、何より政の死も生きてくる。無理やり途中に「仕事人」という存在を当てはめようとした無理のある展開で疑問が残ってしまう。
足を洗った政とお浅の恋模様が縦糸になっているはずなのに、お浅は政のことなど最初から眼中になく、挙句の果てに途中から精神に異常をきたし新興宗教の教祖になってしまい、政との関係が完全に破綻してしまったので感情移入すらできない。それでもお浅を守ろうとする政の姿は、あまりにも惨めでならない。本当は別の人物が予定されていたんじゃないかと思うほど不自然である。最終的な依頼人はなぜか千勢だが、千勢もギリギリまで悪人らしい展開なので、こちらも感情移入できない。一応、千勢にも「後藤家の元女中で当時片想いの男がいたが、当主のお手付きとなり恋が引き裂かれた」というお浅に似た過去が語られるが、それも一瞬の話。どうせならそこへ朝吉を加え、過去の想い人が朝吉であったという展開を設けて厚みを持たせたほうが良かったかもしれない。もっとも、これは朝吉役が従来のシリーズどおり十五代目・片岡仁左衛門であったならという話。大沢樹生では山本陽子と釣り合いが取れない。
そもそも、中心的な仕事人として行動すべきは罠に嵌められ配下の仕事人を全員殺されてしまったおむらであって、主水たちのグループにはまったく関係ない話。ところが、おむらがスケベな主水に色仕掛けで無理やり騒動に引き込んだ話になっている。『必殺仕事人V』以降、主水の片腕として活躍してきた政の立ち位置も最後まで中途半端なままで、精神が崩壊しわけも分からず殺されたお浅のために錯乱し、最後は地獄組頭領・赤目と相打ちで死ぬというのも、何とも空しい死に様だ。過去に数えきれないほどの死線を主水と共に潜り抜けてきた政が、あんななまくらの槍で殺されるのは納得がいかないと過去のファンは思うかもしれないが、今回の政はお浅が死んで絶望するという惨めな男に成り下がってしまったので、この最期も致し方ないのかもしれない。ただ、「惚れた女のために仕事人から足を洗った男が、惚れた女のために仕事人に戻り、そして仕事人として死ぬ」というのであれば、もう少し見せ場をつくってあげてほしかった。
お浅役の酒井法子の演技が何かと取沙汰されるが、僕はなかなか良かったと思う。良かったというのは、精神異常になった後のお浅の演技のこと。あの、何を考えているかまったく分からない、あさっての視線を向けながら純粋で満面な笑みを浮かべる演技は狂人という設定に相応しい演技だと思う。セリフに何の感情もこもっておらず、棒読みなのもこういうところで生きてくる。
監督を務めた舛田利雄によれば脚本段階で相当つまらなかったらしく、現場でかなりのシーンを書き換えたらしい。それで最終的にあの脚本というのであれば、相当ヤバい内容が決定稿として上がっていたということになる。
Hotwax責任編集 映画監督・舛田利雄~アクション映画の巨星 舛田利雄のすべて~
- 作者:舛田 利雄
- 発売日: 2007/10/25
- メディア: 単行本
- テレビシリーズの監督を一度もやったことのない僕のところへオファーが来たのが不思議だった。山内久司*1からではなく、松竹の櫻井洋三からのルートでオファーが来た。山内からは、完成後僕のところへ直接来たときに「面白かったです。ありがとうございました」と懇切丁寧なお礼をもらった。
- テレビシリーズの必殺自体は見たことなかった。一本の映画として、深作が監督した前作『必殺4 恨みはらします』は見たけど。藤田まこととの絡みもまったく初めて。中村主水のキャラクター作りには本当に苦労した。もう既に中村主水は藤田まことのキャラクターだから。だからチーフ助監督で、テレビシリーズの監督をやっていた津島勝と一緒に旅館にこもって作り上げた。その結果、主水を徹底的なスケベにしてやろうと思った。家庭では恐妻家で、裏では凄腕の殺し屋でスケベ。そのほうが、娯楽としての楽しさは増すからね。そのことを藤田に相談したら「それでお願いします」とあっさり了解を得た。りつ役の白木万理とは久しぶりだった。
- (脚本はテレビシリーズのメインライターの一人である吉田剛だが)この吉田剛の脚本がパッとしない。だから、現場でかなり書き換えた。酒井法子が新興宗教の教祖みたいになっていくくだりで、配下にいる男たち(荒勢など)をキャスティングしたのは僕。そのほうが娯楽的で面白いでしょ。名取裕子と山本陽子が出ているが、この二人が主水と絡むことで艶っぽさを出してくれた。
- 松竹の時代劇といえば大船のイメージで、あまり良い印象がなかったんだけど、松竹京都映画は東映京都に比べて居心地が良かった。きちんとした時代劇を作ることができる場所だし、少ないながらも人材が揃っている。松竹京都映画は照明を思い切り落として陰影をくっきりさせるのが特徴なんだけど、それは小さなスタジオだから、明るくしちゃうとセットのボロが出てしまうからそうしている。
一部必殺ファンの間では「舛田利雄はゴーストで、実際は石原興が監督作業を行っていたのではないか」という噂すら飛び交うほどであったが、著書で振り返るあたり、きちんと製作に携わっているように見える。それゆえに余計に残念ではあるが。それにしても、主水がおむらに向かってはっきりと「ヤリたい!初めて会ったときからずっと思っていた」って真顔で言うシーンがあるんだけど、そこも「徹底的なスケベ」にした結果なんだろうと思う。最終的にはヤレなかったが。なお、吉田剛と舛田利雄は、この後に松竹京都映画が製作し日本テレビ系列で放送された連続シリーズ『父子鷹(1994)』でもコンビを組んでいる。
舛田監督が「明るくしてしまうとボロが出る」と言っているが、実は相当ボロが出ている。例えば他の評価サイトでも散々指摘されている「蝙蝠を吊るピアノ線」や「安っぽいGC」など。蝙蝠については、地獄組の設定は「目は不自由だが暗闇でも行動できるよう頭領の口笛によって統率されている暗殺集団」という設定のはずなのに、なぜか「蝙蝠の鳴き声で動く集団」となってしまっている。おかげで、安っぽい特撮の蝙蝠が登場せざるを得なかったのが情けない。主水でさえも窮地に追い詰められるほどの強敵一味だが、光が唯一の弱点というのがかえって良い設定だったのに。
『必殺!III 裏か表か』『必殺4 恨みはらします』の、あの派手で凄惨な展開と、見終わった後に心に残る“何か”はまったく期待できない。多分、当時映画館で見ていた人は退屈だっただろうな、と思わせる作品だった。
キャスト
- 中村主水:藤田まこと
- 秀:三田村邦彦
- 中村せん:菅井きん
- 中村りつ:白木万理
- お歌:光本幸子
- さだ:麻丘めぐみ
- 政:村上弘明
- 後藤千勢:山本陽子
- 朝吉:大沢樹生
- 後藤三之助:岸部一徳
- 太田玄蕃頭:西岡徳馬
- お浅:酒井法子
- 元締 おむら:名取裕子
- 蟹の腕助:安岡力也
- 千吉:保阪尚希
- 金平:佐藤蛾次郎
- 仁王のお松:キューティー鈴木
- 阿修羅のお種:尾崎魔弓
- 与七:白竜
- 服部孫太夫:岡本信人
- 筆頭同心・森下:橋本功
- 地獄組頭領・赤目:天本英世
- 山直海:荒勢
- 光石研
- 原田清人
- 沢井小次郎
- 浅川剣介
- 雅まさ彦
- 宮田圭子
主な登場人物詳細
中村主水
表稼業は南町奉行所同心で、裏では凄腕の殺し屋「仕事人」。家庭では姑・せんと嫁・りつに尻に敷かれている。定町廻り同心だが、金相場の高騰による人員整理に充てられている。
元締・おむらから助働きを頼まれるも、依頼人が金座という大物であることが気に入らず下りる。だが、おむらに対しては「いい女には乗っかりてえや」「お前ぇとヤリたい」などと言いたい放題で、おむら配下の仕事人が全滅した後は手を貸すことになる。
過去に仕事人として長年組んだ政の変わり様を見て、秀に「引導を渡してやれ。それができるのはお前の簪だけだ」と言い放つ。
今回は、事件と事の成り行きを見守る傍観者としての側面が強い。
秀
表稼業は飾り職の職人。長年、主水と共に殺し屋を続けてきたベテランで、今や主水が全幅の信頼を置く仕事人となった。
同じ長屋に住む未亡人・さだとはお互い心も通じているものの、さだの夫・紋太が仕事人であり、その紋太を始末したのが自分であるため心を開くことができない。
政がお浅に惚れて仕事人から足を洗ったことに理解を示し、「(政が)お浅を守るために戦うのなら、お前はまた仕事人に戻ることになる」と政の得物である手槍を取り上げた。
洲崎に隠されている後藤家の隠し金を、打ち上げ花火で打ち上げてやろうと発案した。
中村せん、中村りつ
主水の姑、妻。主水の裏稼業は知らず、とことん尻に敷いている。
金相場高騰の噂を聞き、主水のヘソクリをすべて金相場につぎ込んでしまう。洲崎の金が打ち上げられたとき洲崎に来ており、頭上から降り注ぐ金に、せんは「りつ、金ですよ金!」と驚いていた。
お歌
表稼業は飴屋。お面を顔に投げつけ、相手の視界を奪っておいてから匕首で止めを刺す。
さだ
秀と同じ長屋に住む未亡人。おみよ(田中亜衣)という一人娘がいる。同じ長屋の秀と心を通わせているが、プラトニックな関係を続けている。
政
元仕事人。殺し屋は引退し、表稼業の打ち物屋で生計を立てている。主水とは『必殺仕事人V』からコンビを組み、過去には主水と共に「真砂屋の刺客*2」や「奥田右京亮一派*3」を相手にした修羅場や強敵との対決を潜り抜けてきた。主水が信頼を寄せる仕事人の一人であった。
佐渡が故郷で、同郷のお浅、与七とは幼馴染である。お浅が与七に惚れていることを知った上で、お浅に惚れている。お浅が精神異常を来たし、毎日洲崎の浜辺で「幸せの船」が来ることを祈るようになってからも、お浅のことを見守り続けていた。
お浅が地獄組の手にかかり命を落としたときには狼狽し、秀によって諫められている。その姿を見た主水は、政にかつての面影はなく「ただ惨めに生きていくだけの男」と言い、秀に引導を渡すよう通告した。
後藤家の寮で繰り広げられる仕事人と地獄組との戦いに突如乱入し、不意打ちを受けた秀を庇うようにして赤目の槍を受けるも、得物である手槍で赤目を突き刺し、差し違える形で倒れ絶命した。
秀に預けた手槍を政が持って現れたのは、事前に秀から手槍を渡されていたからだが、そのシーンはカットされている。
後藤千勢
今回の悪事の首謀者の一人。金座後藤家本家当主の妻である。分家の三之助、勘定奉行の太田と共に金相場の吊り上げのために動く。
仕事人への嘘の依頼や一部始終の監督など、表立って動くことが多い。
元は後藤家に仕える女中で、その頃には想い人もいたようだが、後藤家当主の手が付いたことで引き裂かれ後藤家の正妻の座に収まった。低い身分から後藤家に入ったことで、周囲から見下されまいとして自身にも他人にも厳しく接しているが、それはあくまで虚勢であり、精神的に相当な無理をしている。こうした理由から、三之助からは「妾上がり、女中上がり」と蔑まれている。
悪事の一味ではあるが、三之助や太田からは信頼されておらず、既に地獄組が江戸に入って仕事人の口を封じはじめていることさえも知らされていなかった。最後には捨て駒にされ、すべての罪を着せられるかたちで地獄組に始末される。おむらに三之助と太田、地獄組を始末してくれるよう頼み料を託し死亡する。
朝吉
博打うちの遊び人で仕事人。ところ構わず賭場を開くことで奉行所の役人から追われている。
後藤三之助
悪事の首謀者の一人。金座後藤家分家筋にあたる人物。
表向きは本家の千勢を立ててはいるものの裏ではその出自から蔑んでいる。実際のところ、今回の悪事は太田と三之助だけで進めており、千勢のことは最初から捨て駒のように考えている非常に冷酷な人物。
最期は太田ともども主水によって斬り捨てられる。
太田玄蕃頭
江戸幕府勘定奉行職。今回の悪事の首謀者の一人。老中職を金で買おうと画策している。
金相場が上がり米相場が下がったことで江戸の景気は上がり、庶民の暮らしも楽になったと幕府内での評価も高い。金相場を吊り上げ、上がり切ったところで金を売り、その後に銀を買い、隠し持っていた金を相場へ放出。銀の値が高騰したらまた銀を売る、という算段で儲けを企んでいる。三之助と同じく冷酷で、用済みになった人間を容赦なく殺していく。
最期は三之助と共に主水によって斬り捨てられた。
お浅
後藤家に仕える女中。政、与七とは同じ佐渡を故郷とする幼馴染である。お浅は与七に心の底から惚れており、政はお浅に惚れているのだが、自分に向けられている気持ちにはまったく気付いていない。
時折「予知夢」を見ることがあり、今回も与七が乗った船が沈むという悪夢を見てしまい、更にはそれが的中していたことで絶望し川へ身投げしようとするなど、繊細で精神的に脆く、しばしば心を乱されることがある。
与七は今回の悪事に一枚噛んでおり、洲崎で仕事人に口を封じられた与七が絶命した瞬間を見てしまったお浅は、絶叫と共にその場で失神してしまう。
やがて、「与七が乗った幸せの船」が自分を迎えにくると思い込み、与七が死んだ洲崎の浜辺を「約束の場所」として一日中過ごすようになる。金を加工する水銀が蒸発して現れる「青白い炎」を「幸せの船がやってくる印」として崇め、毎夜祈り続けるその姿に江戸町人たちは「気の触れた頭がおかしい女がいる」として話題にするが、その神秘的な姿と言動はいつしか信仰のシンボルとなっていき、洲崎にはお浅と共に「幸せの船」を待つ多くの人々が集いはじめる。
金を隠してある洲崎に人が集まることで、隠し金が見つかってしまうのではないか。そう懸念した太田と後藤一味は、地獄組をつかってお浅の命を狙う。隠し金が打ち上げられ花火で炸裂し、金が頭上から降り注ぐ中、お浅は地獄組の蝙蝠の手に掛かり絶命する。その遺体は小舟に乗せられ、太平洋へと流されていった。
元締 おむら
仕事人の元締。配下の仕事人を5人抱えている。自らも手を下す女元締である。得物はブーメラン状になっている櫛で、相手の頸動脈を鋭く切り裂くことから「鎌イタチのおむら」の異名を持つ。
ただならぬ美貌と色香を漂わせ、その姿に主水は「噂には聞いていたがこいつぁいい女だ」と鼻を伸ばした。
千勢から依頼を受けた大仕事(無宿人の始末)を遂行するにあたり、手が足りないとして主水たちに助っ人を依頼するも断られてしまう。その後、千勢の依頼が悪事の片棒であったために、自らを含めた配下の仕事人が次々に狙われ殺されていった。おむらも窮地に立たされるが、朝吉によって助けられ逃げおおせることができた。
配下の仕事人すべてを殺された恨みを晴らすべく、嘘の依頼を行った後藤家を調べはじめる。地獄組が動いていることまでは突き止めたが、その裏にどういう人物がいるのかが分からないため、再度主水に協力を依頼する。
洲崎で地獄組に襲われた際に、千勢の死に際に立ち会う。千勢から今回の事件の全容を聞かされた上で、頼み料を受け取った。
スタッフ
- 製作:櫻井洋三(松竹)・山内久司(ABC)
- 脚本:吉田剛
- 音楽:平尾昌晃
- 編曲:竜崎孝路
- 撮影:石原興
- 照明:中島利男
- 美術:倉橋利韶
- 編集:園井弘一
- 録音:広瀬浩一
- スチール:野上哲夫
- 監督補:津島勝
- 監督:舛田利雄
- 配給:松竹