凶賊に襲撃される商家を助ける狂四郎(片岡孝夫)であったがそれは薩摩の罠。女主に化けた女の吹き針によって盲目となった狂四郎だが、それでも薩摩の刺客を次々と撃破。お蘭(松尾嘉代)の助けもあって治療を行う。この吹き針を放ったのは、足袋職人・倉本源之助(原口剛)の妻・千佐(岡まゆみ)。吹き針の腕を駿河屋仁兵衛(田口計)に買われ夫の仕官を餌に薩摩に加担する。もちろん、その背後には薩摩隼人党・海老原蔵人(伊吹吾郎)の姿も。
蔵人は「狂四郎の目が見えない今しか討つ機会は無い」と、狂四郎の居所を突き止めるのに躍起となる。ところが見つけても返り討ちばかりで埒が明かない。一方、千佐は源之助が一流の剣術の腕前を持ちながら町人に身をやつしていることに不満を抱いていた。源之助は武士の社会がとことん嫌になり、三年前に自ら武士の道を外れ足袋職人となったが貧しい毎日。それでも、自らの手で明日を切り開く生き方に満足していたが、千佐は武士に生まれながら町人として暮らす夫の境遇に我慢できなかった。
狂四郎の目が見え始めた。駿河屋は源之助が心形刀流の使い手であることに気付き、蔵人は心形刀流であれば円月殺法を破れると判断、千佐をさらい源之助を狂四郎に立ち向かわせる。狂四郎は源之助の腕に軽傷を負わせ二度と刀の持てない腕にする配慮を見せるが、薩摩一派は口封じのために夫婦を殺害。怒りの狂四郎は薩摩一派を殲滅。沼津を後にする橋の上、駿河屋を始末。西国へと進む。
「一寸の針が槍よりも鋭いという恐ろしい武器」吹き針によって両目を射られ完全に暗闇の中にあるというのに、薩摩の手練れを次々と葬る狂四郎の強さはまさに鬼神。針が瞼を貫通して眼球まで射られていれば失明していただろうが、瞼が腫れるだけで済んだという強運も味方している。今を狙えと蔵人が刺客を差し向けるも、これまた撃退する狂四郎。人間の強さじゃねえ。
さて、その吹き針を使った女・千佐は源之助を何とかして仕官させようと駿河屋と取引をするわけだが、源之助はそんなつもりは毛頭無い。元々は心形刀流の使い手として武術指南まで行っていたほどの腕前を持ちながら、勘定方上役と御用商人の悪巧みの罪を着せられるなど武士の社会の醜さに愛想が尽きて町人になった。しかし千佐は武士の血筋と生まれてくる子供のためにも、武士の生活へのこだわりを捨てられなかった。そのこだわりが悲劇を生む。
「心形刀流は心の剣。円月殺法も心の剣。心形刀流ならば、円月殺法を破れるかもしれん」と蔵人も太鼓判を押したことで源之助と対決することになった狂四郎。勝敗は狂四郎に軍配だが、狂四郎の配慮も虚しく倉本夫婦は殺される。怒りの狂四郎が薩摩一派を殲滅、ここでようやく狂四郎の目が開く。沼津から旅立つ狂四郎。巡礼に化けた駿河屋を倒す。狂四郎に恨みの眼差しを向けて死んでいく田口計の演技が怖い。
キャスト
眠狂四郎:片岡孝夫/海老原蔵人:伊吹吾郎/島本半三郎:関根大学/森田周之助:鶴田耕裕/松浦与一郎:片岡松之助
倉本千佐:岡まゆみ/駿河屋仁兵衛:田口計/倉本源之助:原口剛/玄庵:山村弘三/弥十郎:筑波健/弥藤次:重久剛一/親爺:千葉保/和田かつら/矢野希久子/長坂保/前田一広
お蘭:松尾嘉代
スタッフ
企画 | 神山安平(テレビ東京)/大塚貞夫(歌舞伎座テレビ) |
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プロデューサー | 犬飼佳春(テレビ東京)/小久保章一郎、沢克純(歌舞伎座テレビ) |
原作 | 柴田錬三郎「眠狂四郎孤剣五十三次」より(新潮文庫版) |
脚本 | 津田幸於 |
音楽 | 岩代浩一 |
撮影 | 藤井哲矢 |
美術 | 太田誠一 |
制作主任 | 黒田満重 |
照明 | 南所登 |
録音 | 田原重鋼 |
調音 | 本田文人 |
編集 | 河合勝巳 |
装飾 | 玉井憲一 |
記録 | 川島庸子 |
装置 | 松野喜代春 |
進行 | 大志万宗久 |
助監督 | 木下芳幸 |
殺陣 | 楠本栄一 |
特技 | 宍戸大全 |
ロケ協力 | 大覚寺 |
装置 | 新映美術工芸 |
床山・結髪 | 八木かつら |
衣装 | 松竹衣装 |
小道具 | 高津商会 |
現像 | 東洋現像所 |
ナレーター | 佐藤慶 |
制作協力 | 京都映画株式会社 |
プロデューサー | 佐々木康之 |
監督 | 皆元洋之助 |
製作 | テレビ東京/歌舞伎座テレビ |
次回予告
過ぎし日の遠い切実を偲ぶとき、母として胸に渡来する我が子の想い。再び巡り会えた我が子は、遠く手の届かぬところへ。野盗となり、人を刺し殺し死罪に。震える指で爪弾く、手向けの三味の音。「冥途の土産に、円月殺法ご覧にいれよう」