脚本:安倍徹郎 監督:水川淳三 ゲスト:千野弘美 河原さぶ 牧冬吉
坊主・玄達(芝本正)が百軒長屋で説法。女と言う不浄の生き物に生まれた業を説き、おりん(桃山みつる)が過去に堕胎をしていたことを看破。水子供養の代金をせしめるが、主水(藤田まこと)はピンハネを迫る。「騎西屋宇兵衛」の名を出す玄達だがお構いなし。しかし後日、民間の活力を重視する鬼塚(西田健)と田中様(山内としお)から厳しいお叱り。騎西屋宇兵衛(牧冬吉)は江戸一番の香具師の元締。奉行所も何かと世話になっているとのことで、受け取った賄賂は奉行所内の会計に返還となった。供養と言えば、中村家も朝から りつ(白木万理)がお経を上げている。仏壇を見ると水子供養のお守りが。「俺は絶対に子供を孕ませた覚えはないぞ」と主水。
さて、宇兵衛が鬼塚と田中を接待している場にコンパニオンのコールガールが登場。その中の おむら(千野弘美)に一目惚れの宇兵衛は「落とし屋」の異名を取る手下・鎌吉(河原さぶ)に後をつけさせる。おむら が男に絡まれているところを助ける主水。おむら は家庭環境が複雑で、父親がケガが元で寝たきりで貧乏となり、後妻とは折り合いが合わず身売り話が持ち上がり、とうとう14歳の時に吉原へ売られてしまった。12年の年季の間に育ててきた木がすっかり大木となった頃、おむら は長屋へ帰ってきた。親のために吉原へ身を売った孝行娘と最初は評判だったが、すぐに「誰とでも寝る吉原帰りの女」だと噂されてしまうようになる。義理の母親までもが汚い言葉を浴びせるようになり、家を出て住み込みで働いているときに出会ったのが現在の亭主・多吉(坂西良太)だった。多吉は おむら の過去を、知っていても一切聞かず口にもしない男。そんな男と知り合い結ばれ幸せ絶頂の おむら を主水は温かく見守るのだった。
その多吉に鎌吉の魔の手が。多吉は棟梁から預かった材料費15両を掏られてしまい、貸本屋に扮した鎌吉の儲け話に耳を貸してしまう多吉。その儲け話とは、人妻を金持ちの隠居に抱かせるだけで10両〜20両の小遣いを得ることが出来る、と言うもの。切羽詰った多吉は おむら に頼む。「他の男に抱かれてくれ。昔の稼業に戻ってくれ」と。しかし、頑なに拒否する おむら。癇癪を起こした多吉は おむら に向かって「吉原の女郎上がりが。亭主のためにたった一人の男も抱けないってのか」と口にしてしまう。その言葉に何もかもを失い泣き崩れる おむら。翌朝、自分が12年育ててきた木で首を吊った おむら の死体が発見された。「なぜ死ななきゃならなかった……」と静かに怒る主水。
鎌吉の後をつけて騎西屋へ殴りこむ多吉だが、反対にリンチに遭って死亡。金を受け取った主水と お玉(かとうかずこ)は、仲間を集めて今回の仕事をどうするのかの会議。政(村上弘明)と順之助(ひかる一平)は反対意見。過去のある女を妻に持った男が、一生口にしてはいけない言葉を言ったのだから自業自得、というスタンス。しかし、銀平(出門英)は騎西屋たちの企みを屋形船で全て聞いており、一同はその証言を元に仕事にかけることを決定する。
まず順之助が手下の玄達と繁蔵(出水憲司)をバズーカで爆殺。駆けつけてきた鬼塚ら奉行所の役人たちの警戒の中、主水たちは仕事に臨む。
安倍徹郎作品と言うことで、やはり作風の趣が大きく違うように思う。安倍お得意の「女の業」を描いた作品で、過去に縛られ続けたことにより悲劇的な最期を遂げる おむら が哀れ。多吉にあえてあの暴言を吐かせた事が、安倍脚本らしさを滲ませている。他にも、おむら の身の上話をしている最中にかかる挿入歌や、静かに怒る主水など、見所は多々有り。
この作品では「女」を縦糸に最初から最後まで作品が貫かれている。冒頭の玄達の口上から、中村家のコント&作品のオチ、順之助の絡むコメディパートに至るまで、全て何らかの「女の生き方」に纏わる要素が込められている。中村家のコント、主水は「俺は種無しカボチャだ」と りつ の水子供養を不思議がるシーンだが……いや、必殺商売人で孕ませているじゃないのよ、と。しかも、死産だったじゃないのよ、と。更には、その作品の最終話(子供死産の描写)を担当したのは、今回の脚本を書いている安倍徹郎じゃないのよ、と。おせい さんに向かって、あんな泣かせる嘘を用意した安倍御大なのにこの矛盾は一体……といった感があるが、仕事人以前の過去の設定は無かったことになっているんだなあ……と改めて知り少し残念。あれから10年近く経っているしね。結局、このオチは せん の水子供養という事で幕を閉じたが、という事は、せん には りつ、あや、妙心尼の他にもう一人子供がいたという事に……って、これ以上過去作品と結びつけるのは止めにしたほうが良いかもしれない。今回に関しては。
さて、殺しのシーンに向かう前に、アジトに集まって主水が「さあ、今回の仕事、やるかやらないか」と合議に諮るシーンも加えられ一捻りされている。悪人の悪事が決まってしまい、仕置することで話が進むアジトシーンではなく、まるで、仕置屋稼業の釜焚き場で、市松、印玄、捨三と話し合っているみたいで懐かしさがこみ上げた。
殺しのシーンでは、順之助のバズーカが炸裂。中腰の お玉さんの腰からお尻のラインは相変わらず艶かしいが、バズーカで二人貫通→爆破でありえない大ジャンプはやっぱり面白い。このバズーカ爆破が本当の仕事のきっかけとなるのも、通常とは少し違った展開か。しかし鬼塚様、このバズーカ殺しを「間違いない。これは過激派の仕業です」と断定するところが何と言うか。爆弾魔が犯人と決め付け奉行所の役人が辺りを警戒する中で仕事をする、なかなか緊迫した状況。社務所へ騎西屋らをおびき寄せた後、銀平が宇兵衛を、政が用心棒を(スローモーションでの殺し)、そして主水が、罠に嵌めた実行犯である鎌吉を大刀でブスリ。仕事が終わった後は腕に傷を作り、過激派との交戦を装い職務上の公傷で休暇を貰うという、主水の頭の良さが伺える。
ところで、りつ の水子供養のシーンで主水が心の中で「俺は種無しカボチャだ」と呟くシーンで流れるのは、新必殺仕置人の曲かな?サントラにも収録されていないのだけれど。