江戸で一、二を争う韋駄天、伏見屋の多吉が謎の二人組に襲われた。盗まれたのは、春日屋の主が若竹楼へ送る手紙と、番頭・金蔵から預かった六十五両。手紙はさておき、金子は金蔵から個人的に頼まれたこともあり、独自で取り返そうと奔走する多吉。
しかし、借金返済のため多吉の恋女房・おみねが若竹楼へ身請けされてしまう……。おえんが掛け合い一日だけ猶予を貰うことができたのだが、その間に多吉は事件を解決し、若竹楼へ金子を届けることができるだろうか……。
多吉役に久保田篤、おみね役に森口瑤子を迎えた今回のお話。後半は『走れメロス』に似た構成で、「セリヌンティウス」が一番愛する恋女房というのが、より深い人情劇にするためのアレンジとなっており、まさに時代劇に相応しい設定。
訳も分からず二人組に襲われる多吉。若竹楼への手紙を盗まれるわけだが、次のカットで若竹楼の番頭が付き馬を依頼しに来るという連続した展開。蔵前の米問屋・春日屋から半年前からのツケである六十五両を取り立てて欲しい、という依頼なのだが、春日屋の主は六十五両は既に返済した、という辻褄が合わないことに。これにはおえんも頭の中が?らしく、悩んでいる姿に思わず「この稼業は何かに惚れ込まないとやっていけませんぜ」と新五郎。
それもそのはず。春日屋の主は番頭の金蔵に六十五両を渡し返済するよう言付けたのだが、金蔵がその金を無断で多吉に渡していたのだ。そして、多吉を襲ったチンピラと浪人、そしてこの金蔵は裏で繋がっていたというわけだ。
多吉は伏見屋を通していない仕事で大金に穴を開けた後ろめたさから、自分一人で事件を解決しようと奔走する。その間、一ヶ月前に夫婦になった恋女房・おみねは借金の返済に窮し、堪りかねて若竹楼へと身を売ってしまう。おえんは若竹楼の主と掛け合い、おみねの身売りを何とか一日だけ待ってもらうことにした。おえんは、おみねの父が危篤に陥ったとき、南の土地まで必死に走り桜を見せてあげた優しい多吉の心に賭けたのだ。
翌日の晩までに事件を解決せねばならない。子の刻に吉原の大門が閉じるまでに、多吉が六十五両を若竹楼へ戻せば全ては済む。しかし、多吉は悪の一味に捕らえられてしまう。消される寸前に到着したおえんと又之助。一味を始末し、多吉は吉原へと走る。時間はあと四半時。駒込から吉原までを必死で走る多吉に迷いはない。この時に挿入されるおみねの儚げな笑顔と桜の花の演出が泣かせる。なお、今回の殺陣では浜蔵と新五郎はお休み。おえんと村木以外の出番自体が少なめです。
大門は閉まりかけているのだが、この時に村木が気を利かせて時間稼ぎをしてあげるのが何とも粋。間に合った多吉、おみねと抱擁を交わし事件は無事に解決する。実は金子には十両上乗せがしてあったのだが、これはおえんが二人にあげた好意の金子。実はおしまとおけいから借金していたりするのだった。
多吉が十手持ちに追われるシーン、必殺シリーズ中の未使用曲か?
キャスト
スタッフ
原作 | 南原幹雄(新潮文庫・小説推理より) |
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チーフプロデューサー | 江津兵太(テレビ東京)/桜林甫(松竹) |
プロデューサー | 小川治(テレビ東京)/中嶋等(松竹)/斉藤立太(松竹) |
脚本 | 加瀬高之 |
撮影 | 藤原三郎 |
照明 | 林利夫 |
美術 | 倉橋利韶 |
録音 | 中路豊隆 |
編集 | 園井弘一 |
殺陣 | 宇仁貫三 |
装飾 | 中込秀志/清水与三吉 |
調音 | 鈴木信一 |
記録 | 竹内美年子 |
助監督 | 北村義樹 |
制作主任 | 渡辺寿男 |
進行 | 楳村仁一 |
スチール | 佐々木千栄治 |
広報担当 | 高橋修(テレビ東京) |
装飾 | 高津商会 |
衣装 | 松竹衣装 |
結髪 | 八木かつら |
装置 | 新映美術工芸 |
現像 | IMAGICA |
協力 | 京都大覚寺/鈴乃屋/エクラン演技集団 |
主題歌 | 「雨あがり」 作詞:麻こよみ/作曲:猪俣公章/編曲:小杉仁三/歌:坂本冬美(東芝EMI) |
製作協力 | 京都映画株式会社 |
監督 | 高瀬昌弘 |
製作 | テレビ東京・松竹株式会社 |
次回予告
新造を水揚して、金を払わぬ食い逃げ野郎。少しばかりの荒療治は、見逃していただきましょう。「切った張ったは稼業じゃないが…喜の字屋おえん、ケジメつけさせてもらいます」次回、付き馬屋おえん事件帳、ご期待ください。 → 吉原悲話 露の情け