神田橋で料理茶屋を営む花村屋庄八から、金百五十両もの取り立てを依頼されたおえん。相手は大伝馬町で高級料亭を営む天神屋おとよという女主。このおとよ、元は千代里という源氏名で吉原勤めをしていた女で、一年前、当時天神屋の主だった太兵衛に身請けされたのだが、その太兵衛が半年前に死に、今は主として収まっていた。
百五十両の金など借りていないと白を切るおとよだったが、周囲を嗅ぎ回るおえんを疎ましく思い罪人に仕立て上げようとする。自らの色香で男を捕らえ惑わす「女郎ぐも」におえんが取った行動は……。
田島令子をゲストに迎えた今回のお話は、女を武器に男を利用し搾り取れるだけ搾り取る魔性の悪女を相手にする事件。「女の味方」のはずのおえんだが、今回はその女を相手に一体どう出るのか?どちらかというと被害者役が多いというイメージのある田島令子だけれども、今回は妖艶な悪女を演じる。おえんと争うシーンでは、どうしても被害者顔に見えてしまうのは気のせいだろうか?
脚本は三船敏郎主演の『素浪人シリーズ』や『新・三匹の侍』『鬼平犯科帳』、横溝正史原作ミステリーなどで知られる大ベテラン・田坂啓。監督は高瀬昌弘という“鬼平コンビ”。とにかく作品のテンポや演出、台詞回し、抑揚のつけ方など、これまでの作品に比べて一段と濃い内容に仕上がっている。今まで見てきた田坂啓の時代劇脚本作品は全部大好きです。
依頼人である花村屋庄八がおえんに借金の取り立てを依頼しようと思って後を付回していたことがそもそもの始まり。おけいの店の表まで付けてきたのを、でしゃばりなおしまとおけいが「おえんに気がある男」と勘違いしたことが発端。おえんも何やら満更でもない様子で、なかなか切り出さない庄八が「百五十両を……」と言った途端、「見損なわないでもらいたいね!百五十両で私が靡くとでも思っているのかい!?」と啖呵を切ってみせるのだが、それが取り立て依頼と分かった瞬間恥ずかしそうにはにかむのが何とも面白い。
さて、その百五十両というとんでもない大仕事、取り立てる相手は大伝馬町の天神屋おとよ。ところが庄八は借用証文を持っていなかった。新五郎は「庄八が色仕掛けに引っかかっただけ。これは単なる色事の後始末だ」と取り立てに否定的。「ねぇ〜ん、しんさ〜ん」とこちらも色仕掛けで迫ってみても冷静な新五郎に、今回も単独で取り立てを行うおえん。
天神屋の料理を、事件のきっかけを作ったおしまとおけいに奢らせるおえん、しっかりしてます。出てきた女主・おとよに取り立てを交渉するも、「借用証文はあるのか?」の一点張りで惚けられてしまう。おまけに、元吉原勤めであることから付き馬屋の手も熟知しているおとよに、今回の取り立ての難しさを感じ取るおえん。そこで、おえんは強攻策に出るのだが、ここからのおえんとおとよの女のバトルが凄い。
おえん「天神屋のおとよさん。あんたのやり口は盗っ人と同じだ。花村屋があんたから証文を取らなかったのは、男と女の仲だったからだ。世間ではよくあることさ。それを逆手にとって、借金した覚えはないと白を切る。恥ずかしくありませんかねえ?おとよさん」
おとよ「百五十両の金は花村屋が私の体に払ってくれたんだ。そういう売り買いに証文はいらないんだよ」
おえん「随分法外な値段だね。吉原のお店で、女郎を上げても一両と一分あれば足りるんだ」
おとよ「娑婆の女の値段は言い値で決まるのさ。ねえ、おえんさん。あんたの体に百五十両払ってくれる男がいるかどうか……あっはは、そいつは怪しいものだけどねえ」
女同士のプライドが火花を散らすこのシーンだが、ここはおえんが一枚上手だった。何せ、おとよが庄八から百五十両を借りたことを証明させたのだから。業を煮やしたおとよは、囲っている岡っ引き・五十吉に命じておえんから花村屋がおとよに宛てた証文を奪い取ってしまう。おとよは、自分が男を利用して生きているがゆえに、おえんの独り立ちした女の強さに苛立ちを覚えたのだ。
おとよが反撃に出る。喜の字屋から百五十両強請られていると奉行所に被害届を出したのだ。もちろん五十吉がやってくる。これには村木もどうしようもない。奉行所への護送中に上手く逃げるおえんだが……胸元に刃物を隠し持っていると看破した村木が、おえんの胸元を見せられたときの焦る仕草がいちいち面白い。
喜の字屋は村木が指定した晦日までに今回の事件を片付け身の潔白を証明しなければならない。新五郎はまず「おえんへ取り立ての依頼などしていない」と口書きまでした花村屋庄八の態度の急変を調べる。どうやら庄八はおとよとよりを戻したようで、この取り立て自体も、庄八がもう一度おとよを抱きたいがために利用したに過ぎなかった。そして、おえんを強請りで告発したのは、おとよが半年前に行った太兵衛殺害の真相を探られたくなかったところまで付きとめる。おさとが拾ってきた犬は太兵衛が飼っていた犬であり、おえんは太兵衛が持っていた印籠から心臓病の薬を見つける。
期限の前日、おとよが五十吉を待つ屋形船におえんは乗り込む。おとよは太兵衛に身請けされたは良いものの、店の金を自由に使えなかった。そこで、花村屋から借りた百五十両を元手に太兵衛を消すことを決意。伝馬町界隈で嫌われ者だった五十吉を買収し、実行犯にし立て上げ太兵衛を殺害。太兵衛は布団の中で死んでいたということだが、既に殺害した太兵衛を布団に転がしておいただけであったのだ。更に、その死んだ太兵衛の傍で五十吉に抱かれたおとよ……。
おとよは遊女勤めの女の末路だけは晒したくなかった。だから、女と金を武器に男を利用し地位を築こうとした。おえんは亭主殺しを見逃す代わりに尼になることを要求するが、おとよはおえんに刃を向ける。一方、五十吉は新五郎たちの拷問(?)によって口を割ることに。この演出が恐い。おとよはおえんに縛られ、五十吉の証言と合わせて奉行所に突き出され事件は解決。おけいの店で事件解決を喜ぶ中、またもおけいの店の表に変な男が!目一杯めかしこんでやってきたおかしな侍……それは村木鉄平だったのでした。頼りになるのかならないのか、よく分からん御人です。
キャスト
スタッフ
原作 | 南原幹雄(新潮文庫・小説推理より) |
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チーフプロデューサー | 江津兵太(テレビ東京)/桜林甫(松竹) |
プロデューサー | 小川治(テレビ東京)/中嶋等(松竹)/斉藤立太(松竹) |
脚本 | 田坂啓 |
撮影 | 藤原三郎 |
照明 | 中島利男 |
美術 | 倉橋利韶 |
録音 | 中路豊隆 |
編集 | 園井弘一 |
殺陣 | 宇仁貫三 |
装飾 | 中込秀志/清水与三吉 |
調音 | 鈴木信一 |
記録 | 竹内美年子 |
助監督 | 北村義樹 |
制作主任 | 渡辺寿男 |
進行 | 楳村仁一 |
スチール | 佐々木千栄治 |
広報担当 | 高橋修(テレビ東京) |
装飾 | 高津商会 |
衣装 | 松竹衣装 |
結髪 | 八木かつら |
装置 | 新映美術工芸 |
現像 | IMAGICA |
協力 | 京都大覚寺/鈴乃屋/エクラン演技集団 |
主題歌 | 「雨あがり」 作詞:麻こよみ/作曲:猪俣公章/編曲:小杉仁三/歌:坂本冬美(東芝EMI) |
製作協力 | 京都映画株式会社 |
監督 | 高瀬昌弘 |
製作 | テレビ東京・松竹株式会社 |