脚本:国弘威雄 監督:工藤栄一 ゲスト:御木本伸介 三浦真弓 汐路章
座員が寝静まった夜。三人組の人影を見たお艶(山田五十鈴)は直後に初鰹を運ぶ漁師たちが虐殺された現場に遭遇する。そこへ現れる唐十郎(沖雅也)。北斎の「神奈川沖浪裏」を早速炙りだすと、赤く染まったのは海そのものだった。翌朝、急に思い詰め「今度の仕事、出来れば外させて欲しいんだが」と申し出る唐十郎。その様子に、今回の仕事には唐十郎の過去が絡んでいると推察するお艶。
漁師の死体を鎌倉の漁師町へ運ぶお艶たち。そこは魚甚(汐路章)と魚辰(谷口完)の二つの網元が張り合う町で、殺されたのは魚辰の若い衆。この間は生きたまま鰹を運ぶ「御仕送船」の若い衆までもが虐殺され頭を抱えていた。そして、その犯行はライバルの魚甚の可能性がある、と。そこへやってきた魚甚。魚辰に無実を訴えるが、この因縁はそう簡単に消えそうにない。お艶は唐十郎に、江戸へ行き今回の初鰹の一件で誰が一番儲かったかを調べるよう指示を出す。
唐十郎が江戸へ向かう途中、八丈島で一緒だった殺し屋三兄弟と再会する。彼らは唐十郎が恨みを抱く上総屋(御木本伸介)に雇われており、魚辰の漁師を殺害したのも彼らだ。今回の一件から手を引くよう要求する彼らだが、唐十郎はからくり人の意地を盾に断り、彼らと敵対することに。その事を知った座員も、唐十郎を追うように江戸へ。
上総屋は初鰹のビジネスで大儲け。そしてこの男、七年前唐十郎の婚約者だったお静(三浦真弓)を父の借用証文を盾に寝取り、唐十郎から命を狙われたことがあったのだ。唐十郎はこの一件で島送りとされてしまったが、上総屋は密かに恐れていた。しかし、三兄弟の力を借りて唐十郎を拷問にかけ悦に浸る。宇蔵(芦屋雁之助)と鈴平(江戸屋小猫)の助けで救出された唐十郎。お艶らは三兄弟を始末し、唐十郎は上総屋を狙う。寝屋に侵入する唐十郎。上総屋の傍らで眠るお静の姿を見た後上総屋を始末する。
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唐十郎の過去編。死体の傍で絵を炙り出す、江戸で唐十郎を狙う女がわざと鼻緒を切るシーンにおける遠近法を利用したカメラ位置、上総屋がお静を犯すシーンで蝋燭の炎と格子戸を繰り返し挿入、捕らえた唐十郎を助けるよう懇願するお静が錯乱し障子に蝋燭で火をつける、など、工藤栄一の工夫に満ち溢れた演出が随所で冴え渡るが、最も驚くのは、唐十郎とお艶のやりとりの最中、唐十郎が一人思いつめるシーンの背景が本物の「神奈川沖浪裏」になっているところだろう。思い切った演出を試みるものだ。お艶のセリフに込められる意味と唐十郎の心中を差別化した表現だと思うのだが。
江戸処払いのはずのお艶一行だが、いとも簡単に江戸へ侵入してしまう。この時の、宇蔵と鈴平に絡んでくる若者のコメディパートが面白い。江戸での拷問シーンでは、沖雅也と御木本伸介の迫真の演技合戦が展開。恋人を奪われ、板前としての道をも断たれた結果「人殺し」への道を歩ませた上総屋への恨みを思う存分描いており、上総屋が唐十郎を追い詰めるセリフ回しも強烈である。また、宇蔵が唐十郎を助け出す際、土蔵破りのテクニックを披露する見せ場も設けている。
殺しのシーン。黒部進、内田勝正(クレジットでは内田昌宏)、大林丈史というこれまた濃い殺し屋三兄弟を始末するお艶と宇蔵。黒部進が長男なら、次男は森次晃嗣、三男は高峰圭二のほうが分かりやすかったのに。まあそれは置いといて、この三兄弟、でかい口を叩く割にあっさりとやられてしまって拍子抜け。繁華街で派手な殺しが出来なかったこともあるのだろうけれど。唐十郎は一人上総屋へ。寝屋で上総屋の隣にいる元婚約者・お静を見て目を見開いたまま動かない唐十郎。しかしそのまま釣竿の針を前へと押し進める。上総屋を仕留めた後、夜の江戸の町を歩く唐十郎は一人何を思っていたのか。「男も辛いし、女も辛い」インストゥルメンタルではなく、歌詞付きで流れる「夢ん中」が切ない幕切れ。
「神奈川沖浪裏」
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「凱風快晴」と並ぶ北斎の代表作の一つ。赤く染まるのは、「御仕送船」を今にも飲み込まんとする大きな波である。