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日本の片隅でひっそりと暮らすおじさんが書くブログ

必殺からくり人富嶽百景殺し旅 第5話「本所立川」

脚本:吉田剛 監督:石原興 ゲスト:花沢徳衛 青木義朗 阿藤海(現:阿藤快

唐十郎沖雅也)が持ってきた「本所立川」の絵で赤く染まったのは堀割。そこは「おいてけ堀」と呼ばれ河童が出ると評判の場所。宇蔵(芦屋雁之助)と鈴平(江戸屋小猫)が調査に向かうと、どこからともなく「おいてけ〜」の声が。魚を盗んでいく子供達の一人を連れて帰り面倒を見るお艶(山田五十鈴)だが、子供はどこかへ連れ去られてしまう。追いかける座員だが「おいてけ堀」周辺で見失う。辺りを調べると朽ち果てた屋敷が。その中には一人の老人と大勢の子供たちがいた。

子供たちは元軽業芸人だったが、親方とはぐれてしまったところを足の悪い老人・俊次(花沢徳衛)に助けられた。食い扶持が無い俊次たちは止む無く子供たちを河童に変装させ魚を盗んで食べていたのだが、俊次の行動に疑問を持つお艶。更に唐十郎の調べでは、あの屋敷は悪辣な旗本・神尾主水正(青木義朗)のもので、盗賊に「盗っ人宿」として貸し出しその上前を撥ねているのだという。

宇蔵、うさぎ(真行寺君枝)、鈴平が再度屋敷を訪ねると、俊次と子供たちが屋敷を掃除していた。俊次は自らを盗賊だと認めた上で、「体を悪くして働けない人間がまともに稼げるか?」「身寄りの無い子供たちに働き口があるのか?」と宇蔵たちに問い掛ける。「子供たちと一緒に、まともに生きるための最後の大仕事だ。この大仕事で稼いだ金で、平和な生活を手に入れるんだ」俊次と子供たち、彼らの純粋な夢を語る姿に宇蔵たちは言葉が出ない。そして、宇蔵たちは俊次の用意したトラップに掛かり閉じ込められてしまう。

さて、「大仕事」には俊次のスポンサーである神尾も一枚噛んでいた。両替商から千両をせしめる計画はまんまと成功するが、直後俊次は殺されお艶が子供たちを保護する。脱出に成功した宇蔵たちは、自分たちの宿へ神尾たちをおびき寄せる。子供たちの前で神尾一派を始末するお艶。神尾が残した莫大な金を使って生きていこうとする子供たちを諌めるお艶と唐十郎。「俺たちとじっちゃんがまともな生活を夢見て手に入れた金だ!なぜ?」と問う子供たちに一言「盗んだ金だからさ」と諭す。唐十郎は子供たちに「夢」を語り路銀を渡して別れるのだった。

必殺からくり人 富嶽百景殺し旅 VOL.2 [DVD]

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後期必殺シリーズの中心的脚本家となる吉田剛が初めて必殺シリーズを担当したのがこの作品。なるほど、今回の作風を継承したであろう、後期仕事人シリーズ以降に顕著に現れる「純粋な夢を持つ人々が対極にいる殺し屋たちと触れ合いながらも、彼らの夢が悪人によって容赦なく蹂躙されていく」という展開は、確かにこれまでのシリーズには無かった作風だ。いや、あったかもしれないがここまでストレートに描いているのはそうそう無いと思う。この作品が、必殺シリーズの今後に一石を投じたことは、この作品を見れば分かることではないだろうか。なお、この作品は『遠山の金さんvs女ねずみ2』の第12話「桜吹雪と河童騒動」として、吉田剛自らの手でリメイクされている*1

子供たちと彼らを養う老盗賊・俊次が極普通の暮らしを夢見ての盗み働きを神尾一派が踏みにじる。神尾一派が最初から悪人として描かれているので非常に理解し易い展開だが、俊次の悲痛な訴えが宇蔵を通り越して視聴者にも伝わる。更には、時代劇と言うよりも「舞台」「演劇」のような、子供たちのストレートな演技が更にその「純粋な悪」のイメージを強く印象付ける。河童のコスプレをした子供たちが暗闇の中で踊るような動きを見せるなど、光と影を使ったカメラマンである石原興ならではの演出も光る。

殺しのシーンでは、お艶たちと子供たちが同席。「じっちゃんの仇!」と襲い掛かろうとする子供たちを制し、「安来節を歌い終わるまで、目を開けちゃいけないよ」。その間に神尾一派を始末するのは、助け人走る「悪党大修業」を彷彿とさせる。線香花火を釣竿の先端に付けて悪人の首を突き通す唐十郎の殺し。貫通した後も線香花火が火花を散らせているのは必殺シリーズならでは。

キャスト変更

この話より、うさぎ役が高橋洋子から真行寺君枝に代わっている。気の強そうな顔立ちが個人的に好印象。

夢を語る唐十郎とお艶

神尾が残した金で暮らそうとする子供たち。「金があれば何だってできる!」とはしゃぐ子供たちに「ダメ」と一喝するお艶。「盗んだ金だから」と言う理由に加え、唐十郎は子供たちにこう付け加える。

「夢ってのは大切にしなきゃいけねえよ。その夢に架けた梯子が泥の梯子だったら、登ろうとするお前えたちまで汚れっちまうんだぜ。盗んだ金じゃ夢は買えねえんだ。悪いやつらの血で汚れた金じゃ、絶対に夢は買えねえんだぜ」

からくり人の手は子供を育てる手じゃない

うさぎの、子供たちを引き取って座員にしたら?との提案に、お艶と宇蔵は神妙な面持ちで答える。

「からくり人の手は子供を育てる手じゃない。刃物を握る手だからさ。」

「殺しを続ける手だからさ」

「本所立川」

http://www.geocities.jp/zdh/fuji36.htm ← 「5.本所立川」

真ん中の堀割の水が赤く浮かぶ。こここそが、本所七不思議の一つ「おいてけ堀」である。

*1:花沢徳衛演じる俊次の役回りが高松英郎。足を悪くしている老人で、盗みの知恵を授け子供たちを河童に化けさせるという設定も同じ。