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日本の片隅でひっそりと暮らすおじさんが書くブログ

必殺仕置人 第9話「利用する奴される奴」

脚本:安倍徹郎 監督:松本明 ゲスト:津川雅彦 磯野洋子

吉原で浪人を仕置した鉄(山崎努)は、遊女・お順(磯野洋子)に殺しを見られてしまうが、それをきっかけに鉄はお順に心を奪われ、おきん(野川由美子)に借金をしてまでも入れあげる。鉄とお順は何度か逢瀬を繰り返していたが、ある日お順がイケメンの男・清造(津川雅彦)と忍び会っている現場を目撃。お順にとっては清造こそが本命の"カレシ"だったのだ。

失恋に意気消沈の鉄。おきん に「托鉢でもして稼げ」と言われ商家の店先で托鉢を行うのだが、ある日往来であの清造を偶然見かける。誠実そうな外見とは打って変わり、チンピラを引き連れてガラの悪そうな態度。興味本位で尾行をしてみれば、何と別の女・お新(山口朱美)から甘い言葉で金を毟り取っているではないか。仕置人グループは早速行動を開始。半次(津坂匡章*1)の調べでは、清造の言葉に騙されて女郎に売られ、それでも清造に貢いでいる女が14人。そのことを聞いてしまったお順は、確認のため清造のもとを尋ねるが、ちょうどその時、清造は自分が騙されたと知った年増の およう(日高澄子)を首吊りに見せかける残忍な手口で殺害。

殺害現場を見てしまったお順は動揺し、鉄に清造の殺しを依頼する。しかし、長く暗い人生の中、この世で生まれて初めて優しくしてくれた清造への強い愛を捨てきれない お順は、清造に殺し屋が命を狙っていることを告げてしまう。「一緒に逃げて欲しい」という願いを優しく聞き入れた清造は、お順をお姫様抱っこして甘い言葉を投げかけるが、その後すぐ顔色変えることなく古井戸に落とし、殺し屋対策として懇意のヤクザに応援を頼むのだった。

鉄と錠(沖雅也)が清造一派を迎え撃つ。手下を瞬殺する鉄と錠。命乞いに必死な清造のキ●タマを潰し、喉の骨を折り仕置は完了。鉄たちは清造の家の古井戸の底でお順を発見する。瀕死の お順は目が見えず、抱きかかえたのが鉄だとも知らず「清さん……やっぱり助けに来てくれたんだね……」と呟き命を落とす。

主水(藤田まこと)は りつ(白木万理)と江ノ島旅行の途中、棺桶を抱えた錠と半次の姿を発見。何も事情を知らない主水は「これは一体何事だい?」と尋ねるが、鉄は「女郎が一人死んだんだ。それだけの事だ」と答えるのみだった。

鉄の純情話。本気で惚れた相手にはとことん尽くすところがいじらしい。この辺りは基本設定にも通じるところが有る。

津川雅彦がまた嫌らしい役で登場。前作『必殺仕掛人』では敵対勢力の仕掛人だったが、今回は女を食い物にするイケメン役。役柄で見た場合、こちらの方が数段似合っている。小心者の癖に威張り散らす小悪党。ヤクザの後ろ盾があるからこそ自信満々だった鉄たちとの対峙だが、殺られる前には「勘弁してくれやー!」の命乞い、鉄のキン●マ潰しの際には「あんぎゃー!」の絶叫。狙いすぎだろ、ってくらい間抜けな表情で良い。ちなみにこの情けなさは、後の『座頭市物語』の第一話に活かされています。この悪役人生を黒歴史にしていない津川雅彦は何て心が広いんだろう。

一方で、鉄の心の変化も見物。失恋から怒り、そして悲しみへと変わっていく心境の変化と、お順の境遇や行動がシンクロして物語に深みを与えている。最初は清造を殺さず「男として使い物にならねえようにしてやろう」と思っていた鉄だが、ヤクザを雇い入れた清造(「皆さん、お願いしやす」の声が調子良い)に対し「そうか……てめえは人殺しもやるのか」と怒りが頂点に。1人でも逃がしたらヤバイと言う事で、1人ずつカウントしながら手下を殺していくのが何とも愉快。そして、最後まで叶わぬ恋で終わった鉄が井戸の底で お順を抱きしめるカット、門外漢の主水とのやりとりがより一層の悲しみを引き立てている。

松本明の個性的な演出も見所。およう を首吊りに見せかけて殺すシーンはえげつないし、仕置の冒頭「男として使い物にならねえようにしてやろうと思ってな」の場面では、鉄の怪しい手の動きを清造の股の間から撮影。清純な乙女が見たら顔が赤くなりそうなくらいのストレートな演出が光る。余談だが、「楽あれば苦あり親はなし」でも鉄は伊藤雄之助扮する野分の藤造のキンタ●を潰しているが、この回も監督を務めたのは松本明だったりする。

必殺仕置人 VOL.3 [DVD]

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